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(っちゅーか、そんな可愛い顔で小首をかしげるなよ、バカ! 抱きしめたくなんだろーが!)
などと内心騒ぎまくりの心を無にしようと思ったら、胡乱げな表情になってしまった。
好きで好きで堪らない音芽を見上げながら、努めて無表情を装って窓を開けると、
「何だ、忘れ物か?」
俺はわざとらしくあくびを噛み殺す真似をしながらそう告げた。
そんな俺に、音芽はゆるゆると首を振ると「ね、一緒に行こう?」と恐る恐ると言った具合に問いかけて来る。
「わ、私たちが隣同士に住んでいるのは周知の沙汰だし、その、い、一緒に出勤しても変じゃない……と思う、の」
どこか照れくさそうにしどろもどろでそんな説明をしてくる音芽に、俺はほぅっと溜め息をついた。
(ちょっと待て、ちょっと待て! それはつまり……そんな理由を持ち出してまで俺と一緒に行きたいってことだよな? やべぇ、めちゃ健気じゃねぇか!)
吐息と一緒に「ひゃっほぅ!」と叫び出したい気持ちを懸命に抑えつつ。
「――それもそうだな。音芽のくせに冴えてるじゃん」
ニヤリと意地悪に微笑んで音芽を見上げたら、音芽が瞳を見開いて照れたように頬を染めるから。
(なんだ、この可愛い生き物はぁー! くそぉ! 思いっ切り抱きしめてぇ!)
なんて思ってしまったのも仕方ないことだよな?
なのに――。
まるでそんな俺の心を見透かしたみたいに音芽が言うんだ。
「で、でもね……手を繋ぐのは……なしねっ?」
って。
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