エピソード=-2 光と出産

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自分の妊娠を知った61の母は心底恐れていたらしい。 「お腹の中の子を産めば赤ちゃんどころか…私の命すら危ないじゃない。しかもあまり口には出せないけど……ほとんどの確率で上手く発達出来ずに生まれてきてしまうわ…」 そんな不安を残したまま年を跨ぎ、お腹の大きな62の母は幸先が見えない現実に耐えきれず、H.S.の長「ケェペロザンニ」に思いと現状を打ち明けた。当時80を超えていたケェペロザンニはもの言わずに静かに彼女のこめかみに触れた。そしてこう答えた。 「目を…閉じたまま…閉じたまま…… 光の玉を追ってはくれないか?」 その訳の分からない指示に対し彼女は一瞬困惑した。聞き正そうかと思ったがとりあえず「目を閉じれば何かが分かるだろう」と自分に言って聞かせ、素直に目を閉じた。 何も見えない。当然だ。目を閉じているのだから。 1、2分たった頃か…この不可思議な状況に耐えきれなくなり、彼女は「何も見えないぞ」と訴えようとしたが、それは遮られた。 ケェペロザンニはまるで彼女の話すタイミングを把握していたかのようにため息をついたのだ。 それはもう深呼吸とはまた違う……深い深いため息だった。 30秒ほどしたころに体内にあった酸素を全て吐ききってしまったのか「オホッ オエッッ」という声が聞こえてきた。 彼女は耐えきれず1年振りに笑った。 そしてふと我に返ると、暗闇で何も見えないはずの空間にそれはあった。 太陽の様に煌めく光の塊のようなものが
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