1. 不思議なリング

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   *    その日、亜樹は、近くの海辺へスケッチをしに出かける準備をしていた。  ビニールシート、スケッチブック、硬さの異なる数本の鉛筆と消しゴムの入ったペンケース。それらをバッグに詰めていた時だ。  テーブルの上のスマホが着信を告げた。画面には翔の名前が表示されている。 「もしもし亜樹。今日、時間あるかな」 「どうしたの?」  これから出かける予定ではあったのだけど。それを口にすると遠慮されてしまいそうで、先に用件を聞いてみることにした。 「一緒に行きたい お店があるんだ」 「どんな お店なの……?」 「えっと……、ほら、僕たち、もうすぐ結婚式だろ。一緒に指輪を選びに行きたいって思ってさ」  恥ずかしそうに言葉を詰まらせながら、けれど重大なことをしっかりと伝えてくる翔。  素敵な誘いに、胸が高鳴る。 ――海辺へ行くのは、また今度でいいわね……  亜樹は、迷わず承諾の返事をしていた。
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