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その日、亜樹は、近くの海辺へスケッチをしに出かける準備をしていた。
ビニールシート、スケッチブック、硬さの異なる数本の鉛筆と消しゴムの入ったペンケース。それらをバッグに詰めていた時だ。
テーブルの上のスマホが着信を告げた。画面には翔の名前が表示されている。
「もしもし亜樹。今日、時間あるかな」
「どうしたの?」
これから出かける予定ではあったのだけど。それを口にすると遠慮されてしまいそうで、先に用件を聞いてみることにした。
「一緒に行きたい お店があるんだ」
「どんな お店なの……?」
「えっと……、ほら、僕たち、もうすぐ結婚式だろ。一緒に指輪を選びに行きたいって思ってさ」
恥ずかしそうに言葉を詰まらせながら、けれど重大なことをしっかりと伝えてくる翔。
素敵な誘いに、胸が高鳴る。
――海辺へ行くのは、また今度でいいわね……
亜樹は、迷わず承諾の返事をしていた。
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