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亜樹は翔と顔を見合わせた。
店主は今、何と言ったのか。言葉としては聞き取れても、意図を汲み取るにはどうにも突飛すぎる。
「あの。それは、どういう――」
「マリッジリングだというのに、冗談にしても縁起が良くないんじゃないですか。僕は一生、亜樹以外の女性なんて考えられない」
おずおずと口を開いた亜樹より先に、翔がきっぱりと放った。
いつもは穏やかな彼の、少し怒ったような口調。それだけ亜樹への、またマリッジリングにかける想いが強いのだろう。
店主は、さして気に留める様子もなく、言葉を続ける。
「やり直しと言っても、あなたがたが結ばれるより以前に戻れるわけではないのです。例えば、この先、いろいろあって別れようかという話にでもなった時――ああ、今はラブラブで そんなこと想像も出来ないでしょうけど」
眉根を寄せたままの翔に初めて気付いたのか、店主は慌てたように胸の前で手を振った。
「まあ、例えばの話です。あなたがたには無縁かもしれませんが、一般的にはどんな夫婦にもよくある話なんですよ……そんな時、初心に戻って二人でやり直すことが出来る 心強い味方というわけでして」
「はあ……」
俄かには信じ難い話。相槌をうつのがやっとの二人。
けれど、自然と親しみを感じる店主の穏やかな表情、神秘的とも思える話の内容に次第に惹きつけられていく。
「ただし、ひとつの指輪につき一回きりしか使えないですけどね。まあ、ペアなので実質二回もチャンスがあるわけです。今なら、オプションとしてサービス致しますよ。どうです、とっても魅力的でしょう?」
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