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2.やり直し
*
指輪の力を使う時が本当に来るなんて思ってなかった。そもそも、やり直しの機能なぞを本気で信じていたわけではなかった。
そう、翔が亡くなってしまうまでは――
朝、翔はいつものようにお気に入りのバイクに股がり出勤した。
「今日は早めに帰るよ。七夕の飾りつけ、一緒にしような」
そう言い残して。それなのに……
雨上がりの交差点で、スピードを落とさず突っ込んできた大型トラックと衝突した翔。すぐさま救急車で病院に運ばれたが、手の施しようがなかったらしい。
亜樹が駆けつけた時には、既に息絶えた翔と対面することになった。内臓破裂でほぼ即死状態だったと聞かされた。
呆然としたまま、しかし喪主として慌しく葬儀を終えた亜樹は、しんとした部屋の隅に縮こまり、涙に滲んだ瞳で左手薬指を見つめていた。
あの時の店主の言葉を思い出し、不思議な力が宿るというその指輪に一縷の望みをかけてみる。
――どんな状態でもいい、とにかく翔が生きていてさえくれたら!
それは、亜樹の偽らざる気持ちだった。
と、その時だ。
これまで淡い光を静かに宿していたリングが、突然眩いばかりの強烈な光を放ち始めたのは。
人生のやり直しができる――信じられないことだが、その話は嘘ではなかったようだ。
亜樹の周りを、時間がみるみる逆流していく。二人の運命を包み込みながら。
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