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0.プロローグ
翔との初めてのデート。
それは星空の綺麗な七夕のことだった。
「あれが こと座のベガ、こっちが わし座のアルタイル、それから はくちょう座のデネブ」
澄んだ夜空に輝く星々。その中で一際煌くそれらは夏の大三角と呼ばれ、織姫と彦星の伝説にもなっている――というのは聞いたことがあるけれど。実物をこうしてじっくり観たのは初めてかもしれない。
翔の説明に耳を傾けながら、亜樹は彼の指差す先を目で追っていた。
間に流れる天の川もくっきりと見えるから、きっと織姫と彦星も年に一度の再会を無事に果たしたことだろう。
七夕の伝説に想いを馳せながら、亜樹は翔の肩へと頬を寄せる。自然と翔の腕が亜樹の背中へ回される。
心地よい空気が二人を包んでいた。やさしい風が、脇にある笹の葉を揺らし、短冊をひらひらと踊らせる。
「ねぇ。何でも ひとつだけ願いが叶うとしたら、翔は どうしたい? 」
ふと思いついたことを口にする。
「うーん、そうだなぁ……」
少しの間を置いて、翔の真剣な面持ちが向けられた。
「亜樹に僕の名前を呼び続けてもらいたい、かな」
そんな彼に くすりと笑みを零しながら。
「そんなので良いの? だったら、いくらでも呼んであげるわよ」
仄かに頬を染めて、亜樹は囁いた。
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