遺失物

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 雑多な街中で私を落とした。  それは百貨店の中だったかもしれないし、近所のコンビニだったかもしれない。  とにかく私は私を落としたようであった。  なぜ私が今朝まで私を保持していたと言えるかというと、今朝起きて布団から出るとき、朝食を食べたとき、洗面所で身なりを整えたとき、たしかにそこには私があったからだ。 しかし今はその影が見られない。つまり失くしたということだった。  私は私をどのように扱っていたのだろうか。  何事にも替えられない大切なものとして扱っていた気がする。  その反面、私は私にひどくあたっていた気もする。  私にとって私とは何だったのだろうか。  かけがえのないものだった気もするし、どうでもいいものだった気もする。  今日ついに私を落とした。  さて、果たして私は取り戻せるのだろうか。  普遍的流動性にさらされながら自分に問う。  耳には流行りの音楽、目には全国チェーンの看板、手には今日発売されたばかりの雑誌。  私は私を失ったままだった。
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