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「とどめだ魔王!」
勇者・たかしが雄々しく叫びつつ、大剣を振りおろす。爆音とともに激しく土埃が舞う。
何も見えない。一体どうなった? この星の人々全員が、固唾を飲んで見守る。
ようやく視界が開けると、魔王・ファウストの緑色の巨大な体躯は大地ごと真っ二つに切り裂かれ、力なく横たわっていた。
「やった……!たかしが、たかしがやってくれた!」
「つ、ついに終わったんだ。長きにわたる戦争の日々が!」
「俺たちが勝ったんだ! うおぉー! やったぞー!」
そこら中から地鳴りのような歓声が沸き起こる。一斉に武器を放り投げ、抱き合い、勝利を分かち合う人々。
同時に、魔王軍との戦争が始まって以来ずっと分厚い雲に覆われていた空から、約一年ぶりに地上に降り注ぐ太陽の日差し。
それはまるで、人類の勝利を照らすスポットライトのようだった。
「お疲れ様。そしてありがとう。あなたのおかげね、たかし」
この一年間、たかしとともに魔王軍と戦ってきた女剣士・エミリアはそう言って、たかしの肩に手を置いた。
金色の髪が風にたなびいてキラキラと光る。
「俺だけの力じゃないさ。魔王に立ち向かうため、世界中の人々が一つになって戦ったからこそ、勝つことができたんだ」
約一年前。魔王軍が宇宙の彼方から突如として現れ、たかしたちの住む星に侵攻を開始した時。
それまで幾年も紛争を繰り返していた各国は互いにいがみ合うことをやめ、魔王という巨悪に立ち向かうため全国家軍事同盟(通称「全国同盟」)を結び、文字通り一つになって戦った。
たかしの言うとおり、今回の勝利は人類の力の結晶であった。
「それと、」
一度言葉を切った後、照れ臭そうに頬を掻くたかし。次に続く言葉に期待し、エミリアもまた顔を熱くした。
「俺が戦えたのは、君がそばにいてくれたからだ。……愛してる」
「たかし……」
ともに苦難を乗り越えたたかしとエミリアの間に、友情を越えた「何か」が芽生えたこともまた、自然の摂理であった。
二人は磁石のように引かれ合い、じりじりと距離を詰めてゆく。
ドッと盛り上がりを見せる歓声。誰かがピューと指笛を吹いている。やむことのない万雷の拍手の中、世界を救った男女はゆっくりと口付けた。
こうして、世界平和は訪れた。
めでたし、めでたし。
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