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第三話
部屋は僕を拾ってくれた男、ロザの隣になった。
彼は僕に兄のように接してくれる。僕が疑問に思ったことはファミリーとしての情報にかかわらない限り教えてくれる。しきたりがタトゥーを入れることだとかそういうの。
下っ端だから暇なのかもしれないが、彼はよく僕に構ってくれて僕の気の休まる存在にもなっている。
本当に家族みたいで温かい。
ボスが言っていた家族のような関係でありたいという言葉の意味を身にしみて感じている。
距離感が近くて、とにかく優しいのだ。時々自分のいる場所がマフィアの屋敷だということを忘れてしまう。
ロザが初めて会った日に言っていたことは事実で、僕が危険にさらされたことは一度もないし、ここは安全な場所だと言えるだろう。
僕は屋敷に来てから数日の間に、自分が出来る家事や雑用の内容を書いた表を作った。ボスに渡すとすぐにそれを印刷して屋敷内にいる人たちに配ったようだ。それからファミリーの人の頼みごとをやるようになった。
部屋の掃除やお洗濯、料理など様々。時には一緒にやってくれ、なんて言われてニコニコしながら一緒に家事をする人とかもいる。
でも僕が嫌がるようなことを要求する人がいないのは、このファミリーの雰囲気故なのだろう。
そしてたまに、ボスも僕にお願いをしに来ることがある。
綺麗なボスが僕に要求するのは高確率で話し相手だった。
大体ボスが僕に質問攻めをしてくる。好きな食べ物、好きな色、嫌いな飲み物、とまあ色々。真面目に見えるボスだが、普通に話してみると真面目というよりは気さくで関わりやすい印象を持った。こういう人だから、たくさんの人間がついてくるんだろうな。
一度なんで僕に質問ばかりするのかと聞いた。するとボスはリラックスするからと言う。
しかし一方的に質問されているとある感情が浮上した。
相手に対する興味。ボスのことを知りたいという感情だ。
以前の僕にはあまりなかったもののように思う。人と関わるのが嫌いなわけではないが、人に興味を持つほうではない。
ただ何となく流されて、生活を送っていたのだ。当たり前が崩壊するまでは。
それなのに、普通のマフィアから大きく外れたロカリノのことが気になっている。
幼いころにはなかった好奇心が今になって湧き上がっていた。
そんなことを思った数日後、またボスから話し相手になってくれと誘いが来た。先に頼まれていたロザの部屋の掃除をきちんと済ませたあと、ボスの部屋に向かう。
廊下はやっぱり長いと思う。室内の装飾の豪華さには慣れてきてしまったが、部屋の距離感、廊下の長さにはいまいち慣れることが出来ない。
ドアをノックしてから部屋の中を覗くと、ボスは窓の外をじっと見つめていた。ぼーっとしているというよりは、何かを考えていそうだ。
そんな姿も絵になってしまうボスをしばらく眺めていると、ボスは僕の存在に気付いたようでいつもの顔に戻った。
「すまない、入ってくれ。」
「はい、失礼します。」
いつも通りのソファの位置に腰かけるとさっそくボスが話を始めた。
「今日は何を話そうか。」
「あの、今日はボスのことを教えてくれませんか?」
「俺か?別に聞いても特に面白いことはないと思うが…。」
「いいえ、人の話を聞くのは楽しいですよ。あなたが僕の話を聞くように。」
ボスは少し考えるようなしぐさをしてから、うなずいた。
「そうだな、いつもは話すことをしないがたまには悪くない。何が知りたい?」
知りたいことはたくさんある。
でも一番聞きたいことは一つだけだ。これはずっと気になっていたから。
「どうしてこんなファミリーを作ったんですか?」
優しくて温かい場所。みんなが家族のような関係で居られる場所。
そんなところをどうして彼は作ったのか。
もしかしたら彼の前の人が作ったんじゃないかとも思ったが、彼の生き方を見ている限りファミリーの意志はその生き方が反映しているように思えた。家族を大切にする彼の思いが、みんなの思いになっているような。
「いきなり核心に迫ってくるな。少し長くなるかもしれないが構わないか?」
「はい、むしろボスの時間を取ってしまわないかが心配です。」
「それは大丈夫だ、じゃあ俺の話をしようか。」
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