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第四話
「まずは俺の家のことからだな。…俺の父はこのファミリーの俺の前のボスだ。でも死んだ。仲間に殺されて、な。」
「裏切られたんですか?」
「そう、裏切りだ。俺が18の時だ。その時はキアファミリーも何かとピリピリとした雰囲気が漂っていた。この屋敷にも住む奴はほとんどいなくてお互いがお互いを敵視さえしていた。」
今の屋敷の中を見ていると想像もできない話だ。この同じ空間に険悪な雰囲気が漂っていたと思うと不思議な話である。
「父は強さを買われてボスまで伸し上がった人間だ。それを快く思わない奴がたくさん居たんだろうな。しかし父はそいつらと上手くやれなかった。それで、殺されたんだ、母もその時一緒に死んだよ。」
わずか18で両親を突然失うなんて辛いに決まっている。僕は父の顔を見たことがないし、母からは自分の意志で離れたから想像もつかない。
ずっと一緒にいた家族がいきなり殺されるなんてことは。
彼は一人で背負っているのだろう、そのつらさを。
「息子の俺は、父の遺言によって自動的にボスの立場につくことになってしまった。当時の俺なんて本当にひよっこで。色々言われたよ、悪口は日常茶飯事だ。でも、俺は父のファミリーを潰すことなんて出来なかった。そして、あんなことをもう二度と起こすわけにはいかなかった。」
「仲間が仲間を殺すようなこと、ですか。」
「ああ、俺はそんな見にくい争いはもう見たくなかったんだ。俺は平和主義者だからな。」
彼は戦いを好まない。
マフィアだったら必要になってくるだろう争い。それを止めるという決断はなかなか下せないはずだ。
「そんなことがあったから、俺は今のような、皆の気が休まるような人間関係を作りたかった。今のこの形にするまで10年かかったんだ。人は難しい。10年も、かかってしまった。でもこれで父にも堂々と挨拶に行ける。」
あまりにも今の雰囲気が自然だから、もともと今の風じゃなかったことに驚いた。ロカリノの努力の結晶がこのファミリーの人間関係なのだ。
僕はやっぱり部外者だな。ロカリノの苦しみをまったく共有することが出来ないのだから。
「すごいです。上手く言えないけど、その10年の価値は何よりも大きい。お互いの関係性の大事さに気付ける人は、強いです。」
僕は他人に対する興味がなさ過ぎて相手からの信頼が得られず、気の許せる友人を持てなかった。
母はお人好しすぎて悪い人を寄せ付けてしまった。
僕と母は人間関係を作るのが下手くそだ。だから余計に、人間関係というものの大切さはわかると思っている。
「ありがとう、アカネ。なんか疲れた。こんな話をしたのは初めてだ。どうもお前といるとおしゃべりになってしまうらしい。これじゃロザと同じだ。」
「たくさんお話聞かせてくださいよ。」
「そうだな、いつも聞くばかりじゃ対等じゃない。」
どんどんロカリノのことが気になっていく。
この危うくて儚い存在を守ってあげたいとさえ思った。
もっと近づきたい。もっと知りたい。
彼のことが、気になる。
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