翌る朝(13)

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翌る朝(13)

 俊介が遥を寝室に促した。  そこにはもう遥の着るべきものがすべて用意されていて、着替えるだけだった。  実は遥はネクタイがうまく結べない。昔、父に習ったのだが、スーツを着なかったために忘れてしまった。 「お手伝いさせていただきます」  俊介が遥に向き合った。持てあましていたネクタイの先を俊介に渡すと、喉元でするすると結ばれていく。 「手慣れているな」 「桜木の他の者がまだ結び方を覚えていない時は、わたくしが結んでおりましたので」  鏡の中、一人前にネクタイを締めた姿が映る。 「さ、お袖をお通しください」  後ろから上着を着せかけられる。  スーツにしては珍しくくすんだ緑色系で、ストライプが入っている。当然オーダーメイドだ。そういえば遥が無気力になっていた時に、採寸やら仮縫いやらをやらされたのを徐々に思い出してきた。  遥の仕度ができたのを、俊介が内線で連絡している。  すぐに達夫が迎えに来た。 「玄関までのご案内はわたくしがさせていただきます。俊介は先に出なさい」 「はい、失礼致します」  俊介が遥に頭を下げて、部屋を出て行った。急に心細くなる。 「俊介は?」 「俊介は本日凰様の護衛の任もございます。五家には五家の出入り口がございますゆえ、そちらを出て玄関前にて凰様をお待ちする手はずになっております」  ほっとした。気がつくと達夫が微笑を浮かべていた。 「俊介をご寵愛いただき、誠にありがとう存じます」  顔に血が上るのがわかった。 「寵愛って、なんか……意味深」 「そういう場合にも使われる言葉ですが――」  達夫が察しよく答えた。 「――五家と呼ばれる、加賀谷家にお仕えする者にとって、ご本家の方にご重用いただけることは誠に名誉なことなのでございます。ましてそれが、凰様となれば五家の中でも特別な存在と一目置かれるようになります。かの者にとってそれは大変重要なことでございます」 「追放されていたのが、戻されたから?」 「ご慧眼、恐れ入ります」  達夫が頭を下げた。 「よく働く子でございます。どうか御重用ください」  顔を上げた時には達夫はもう切り替わっていた。 「では玄関へご案内させていただきます」 ――翌る朝 了――
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