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1、はれたそらのひ
どこまでも続く、秋の澄んだ碧落を仰いで、涙が溢れた。
躰を支配する悲しみが、吐いた息と一緒に出ていけば、人は涙も零さず、辛い現実を受け流す事が出来るのに。
胸を締め付けた悲しみとは対象的な清々しさを持った空を見て、自分の泣き声を殺し、涙を拭った。
あの晴れ女め。
自分が焼かれて骨になる日まで、晴れにしなくていいのに。
白と黒の交互の縦ラインの布に囲まれ、僕の義姉は棺に入り、火葬場の代車でゆっくりと骨だけになる手順を踏んでいた。後は緑の火葬ボタンを押せばいいだけ。僕の手を姪っ子の梓がぎゅうっと強く握った。小さな爪が手の平の肉に食い込む。握られた強さが胸の痛みと苦しさを物語っていた。殺した声が悲しみごと生き返りそうだった。叫び出してしまいたい。
嘘だッ、嫌だ、やめろっ、押すな、行くな。頼むから、何でもするから、と泣いて縋りたかった。
幼かったらそれをしても許されただろうか。
「あぁぁ、ぐずっ、ずっ、おが、ぁ、さぁああん、ぐずっ」
代わりに梓が喉の奥から溢れ出した泣き声を上げた。
火葬場に親族の鼻を啜る音や涙を堪えたような小さな呻き声が響いた。梓の祖父が諦めた様な溜め息を吐いて、火葬場のボタンを押した。
ブーっと、残酷な音に頭を殴られた気がした。
義姉は34歳で、僕は27歳。梓は10歳。夏の陽射しを引き摺った光と、秋の匂いを孕んだ風に吹かれた、昼下がりの葬式だった。
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