エピローグ

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「向こうで進学過程を修めた後、メディカルスクールに入学したんだ。医師免許を取るためにはどちらの国も色々と条件があって、時間がかかってしまった」 「そんな、言ってくださいよ……俺に隠し事をするのはやめてください」 「ごめん、サプライズしたくて。びっくりした?」  楓が無邪気に首を傾げる。 「びっくりどころじゃありませんよ」  驚きと喜びで目頭が熱くなってくる。 「うれしくない?」 「悔しいけど、最高に嬉しいです」  楓がへへっと無防備に笑う。 「お前との将来のことを考えていたんだ。そしたら、やっぱりこうやって肩を並べて歩きたいなって。これからもずっと会いたくて、頑張ったんだよ」  わざとなのか、無自覚なのか、どんな意識でやっているのかは分からない。楓はあの大学祭以来少し変わった。普段は不遜な態度なのに急激に素直で可愛くなる小悪魔スキルを身につけてしまったのだ。これが非常に厄介だ。  出会った頃から振り回されてばかりだが、番になってからも変わらない。  でも、愛しい人に翻弄される人生も悪くないと思うからお手上げだ。 「それより、ストーカーとかいないだろうな」  楓がふいに圭介が着ているスクラブの裾を掴んだ。 「えっ、楓さんストーカーいるんですか!?」  容姿だけ見れば確かにいてもおかしくないので、圭介は心配になる。 「俺じゃない。お前だよ」 「いませんよ。どうしてそんなこと言うんですか?」 「いや、こっちの話だ」  意味は分からないが、満足そうに口角を持ち上げる楓を見て、やっと実感が湧いてきた。  愛する人が目の前にいて、これからもずっとそばで歩んでいける。そのことに感動せずにはいられない。  突然楓が跪き、圭介の手を取った。手の甲に口付けをしてにやりと微笑む。 「ただいま、俺のアルファ」  圭介はため息をついた。この人は出会ったばかりの頃の自分の奇行を真似てからかっているのだ。 「……悪趣味ですよ」  ふきだしている楓を圭介は横抱きに抱え上げた。 「うわっ、何するんだ」 「仕返しです」  困惑する楓に構わず、くるくると回ってみせる。  立ち止まって見つめ合うと、楓が観念して困ったように眉を下げた。  可笑しくなって二人で笑い合う。会えないつらさが跡形もなく吹き飛ぶくらい、今は幸せに包まれている。 「おかえりなさい」  俺だけの、秘密の――。  その言葉は発されることなく、楓の唇の上に溶けた。  誰もが憧れるようなエリートアルファ。きっちりと留められた彼の襟のすぐ下に噛み跡があることを、圭介の他に、誰も知らない。  【Fin.】443b5584-fa79-4b71-a554-ff788484323f37e81d5c-6287-4fb3-9c1f-1ff2b1f30742
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