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「……他の人には見えないの? 恭佑……本当に幽霊なんだ」
「……だな」
「でも、玄関の扉には触れるんだね」
「……外に出られるのか?」
恭佑は靴を履き、閉まったばかりの扉のノブを持った。扉は開いたが、恭佑はそれ以上前に進むことができない。足を出そうとするが踏み出せず、透明な壁があるかのように体の通過を阻んでいる。
「出られない」
「幽霊って、壁をすり抜けたり、誰かに憑依したりするのかと思ってたけど、……恭佑は違うんだね」
「……みたいだな。俺は里帆と陽莉と、ハルカゼにしか見えない?」
二人がリビングに戻ると陽莉はハルカゼと一緒に絵本を読んでいた。
「……俺は、本当に幽霊なんだな」
恭佑は肩を落とし、小さく言った。
その姿を見て、ハルカゼはため息をつく。
「やっと状況が飲み込めてきたか? 恭佑、お前は今、死までの猶予期間を与えられている。幽霊なのに、幽霊らしくないのはそのためだろう。お前の姿が見えるのは里帆と陽莉とワシの三人。移動できる場所はこの家の中だけだ。世の中でお前は死んだことになっている。お前がこの家の人やものに触れられるのは、ワシが巫女婆に頼んだからだ」
「さっきも出てきた、巫女婆って誰?」
里帆が聞く。
「いちがんじんじゃのおばあちゃんだ」
陽莉が絵本から顔を上げ、里帆を見た。
「え? あの一願神社? 保育園の近くの?」
「里帆は知ってるのか?」
「うん。保育園の近くにある神社に居るおばあさん。名前は知らなかったけど……、恭佑も知っていると思うよ。ハルカゼを拾った桜の河川敷を覚えてる? あの裏の神社」
恭佑は口に手を当て、思案する表情を浮かべる。そして、しばらくして、ああ、と表情を崩した。
「あの、小さなボロい神社か。赤い袴のおばあさんが居たな」
「そうだ。ワシを拾った日に里帆と恭佑は参拝しただろう。その時も居たぞ」
ハルカゼはそう言って目を細めた。里帆はじゃあ、声を発する。
「この状況はその巫女婆が作り出したってこと?」
「……そうじゃな、そう言ったら悪者のように聞こえるかもしれないが、巫女婆は願いをかなえてくれているだけだからのぉ……」
「願いを叶える……巫女婆って何者なの?」
「……土地神様、みたいなものじゃ」
里帆は、土地神、と口の中で繰り返して、非現実的な話に言葉を失う。
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