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「ハルカゼが願ったのか?」
「そうじゃ、ワシの願いだ。恭佑を生き返らせて欲しい、と。49日だというのは後から聞いたんじゃがのぉ……」
「……49日経てば、恭佑はどうなるの?」
里帆が聞くと、ハルカゼは、あ〜、と呟いて首を振った。
「そのあとは、分からん」
「消えちゃうってこと?」
ハルカゼは返事をしない。
里帆は恭佑の顔をゆっくりと見た。
一昨日、里帆の勤務するスーパーに恭佑の学校から連絡があった時は、夢であって欲しいと恐怖で震えた。病院で恭佑は変わり果てた姿で寝ており、ただ絶望した。正直、その後の葬儀は立っているのがやっとで、これからどうやって生きていけばいいのかと不安に押しつぶされそうだった。不安定な足場で足踏みをしているかのように骨箱を抱えて、家に帰ってきた。母親だから娘のために、しっかりと立たないと、と自分を奮い立たせようとすればするほど、未来は何ひとつ明るく見えなかった。この先、支えていかなければならない小さな背中が状況を分かっていないことが悲しく、永遠の別れを説明することは辛くて堪らなかった。
幽霊でも、夢でも、現実離れした状況でも、今、恭佑が帰ってきたことに驚いたが、嬉しかった。また、49日後にその思いを繰り返すのは心が耐えられない。
あんな思いは、もう二度としたくはない。
「……その巫女婆って、何でも願いを叶えてくれるの?」
里帆は膝の上で手を握る。
「……何でも、とは言えない。巫女婆は願いを叶える代わりに、代償を要求するからのぉ」
ハルカゼはそう言って、後ろ足で頭をかりかりかりとかいた。
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