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里帆が呆然としていると、ちろりん、と高い鈴の音を鳴らし、ハルカゼがリビングに入ってきた。茶色とオレンジ、生成りの白がバランスよく配置されたオス猫はソファに登る。恭佑の隣に腰を降し、尻尾をふわりふわりと揺らして、里帆を見た。
「腹が減ったぞ、里帆」
低くしゃがれた老人のような声に名を呼ばれ、里帆は固まる。
「あ、ハルカゼもおなかへったの? ママぁ、キャットフードあげていい?」
陽莉は慣れたように反応し、里帆の服の裾をちょんちょんと引く。
「うん、いいけど……、って、え? 待って、ちょっと待って、今、ハルカゼ喋らなかった?」
恭佑が頷き、両手でハルカゼを抱き上げる。
「ハルカゼ、喋ったのか?」
「……恭佑、お前が死んでしまったら、ワシらの計画が潰れてしまうじゃろうが」
さっきと同じ声がハルカゼの口から出て、里帆は驚きのあまり腰を抜かした。
「しゃ、しゃべった……。猫なのに……、嘘でしょ……」
恭佑の腕からハルカゼはするんと抜け出すと、呆れたようなため息をついた。
「何も覚えてないのは計算外だったのぉ……、仕方ないか、完全に生き返らせるのは巫女婆の力でも無理か……」
「なんの話だよ? 計画とか、俺が死んでるとか……。大体、ハルカゼ、何者なんだ?」
ハルカゼは里帆をちらりと見て、首の鈴を鳴らした。
「ワシか? ワシは猫又じゃよ。その事も忘れてしまったのか、なんだか寂しいのぉ」
「ハルカゼーっ! いつものキャットフードもってきたよ」
「おう、じゃあ、先にそれをいただくとしようかの。陽莉、そこに置け。お前は菓子とやらを持て、一緒に食すぞ」
「りょうかいーっ! ……それより、おはなしできるのママにないしょにしなくていいの?」
陽莉は薄い眉を寄せ、穏やかに聞く。
ハルカゼは里帆を見た。
「……前と違って、里帆も大人になったからのぉ。怖がられたら、悲しいが、恭佑がこうなってしまった今はもう、そんな事言ってられなくなったんじゃ」
「ふーん。……おとなもネコも、いろいろたいへんなんだねぇ。ねぇ、ママ。ママも一緒におかしたべようよ〜」
陽莉の言葉に、里帆は、うん、と返事をしながら、やっぱり夢であって欲しいと、思いっきり自分の頬を両手でつねってみたが、ジーンと痛いだけだった。
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