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状況がよく分からないまま里帆はリビングテーブルに広がったスナック菓子を口に運んだ。幽霊になった恭佑は空腹を感じるだけではなく、喉も乾くらしく、コップに注いだお茶も飲むことができた。
ハルカゼは、この際だから、と陽莉が持ってきたキャットフードはいつも同じ銘柄なので時には違う種類も食べたい、あと、前に一度だけ食べたプレミアム猫缶が非常に美味であったため、もう一度食べたい、と里帆に注文した。
「……食べ物の話より、この状況は何なの? 説明してよ」
ハルカゼが食べ終るのを待ちわびた里帆は口を開く。ハルカゼは前足を舐めながら、そう急かすな、とのんびりと言った。
「ごほん。ごほん、まず、恭佑だがーーー」
わざとらしく咳払いをし、話を始めようとすると、部屋のインターフォンがハルカゼの声をかき消した。
「あ、俺かも。柳川先生の新刊を予約してたんだ」
インターフォン越しに宅配業者が映っている。恭佑は立ち上がり、玄関に向かう。
「またぁ? 恭佑の本棚、もう本が入らないよ。授業で使う本はいいけど、趣味の本は整理してよね。重すぎて床が抜けちゃうよ」
里帆の言葉に、恭佑はひらりと手で返事をする。
「で、さっきの、続きだけど……」
ハルカゼに先を促す。
「すみませーん。坂城さーん。扉がすごい勢いで開いたんですけど……、サインがいるのでお願いしまーす」
「あれ?」
恭佑が行ったはずなのに、と里帆は玄関に行く。恭佑は靴箱の前で突っ立っている。
「恭佑、サインも忘れちゃったの?」
里帆が聞くと、違う、と首振った。
「……あのー、すんません。ここにサインを」
差し出されたボールペンでサインをして、箱を受け取る。
「はい、お疲れさまです」
里帆が笑うと、宅配業者の若い男性は首を傾げ、靴箱の前を凝視した。
「そこに何かいるんすか? さっき奥さん、話しかけたように見えましたけど……」
「え、この人、見えませんか?」
恭佑の腕を持って、指差す。宅配業者は困ったように眉を寄せ、いやぁ、と目を逸らした。
「……じゃ、あざっしたー」
彼はそそくさと玄関の扉を閉めた。
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