序章

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例年より比較的に暖冬だと言われてはいるが寒いものは寒い。夜は一段と冷え込むみ、鋭く身を切る冬の冷気が、呼吸する度に喉や肺を刺し貫いていく。 静馬市西公園 敷地内にはブランコやシーソー、ジャングルジムに滑り台といったお馴染みの遊具の他、芝生を敷いたかけっこ広場や、河に隣接した親水広場などを有しており、近隣では比較的大型の公園だ。 日中の賑わいは泡沫の幻か、闇に覆われた公園は不気味なほどに静まり返っている。 自分の息づかいとスニーカーの底が枯葉を踏みしめる乾いた音がひどく大きく響き、見慣れた公園にいるはずなのに、まるで別の空間に迷い込んだかのようだ。 寒さからとうに指先の感覚は失せている。 この場に不釣り合いな黒の学生服の少年は足を止め、手に下げていた竹刀袋を肩に担ぎ直し、星冴(ほしざ)ゆ天(そら)を仰ぐ。 間もなく真南に差し掛かろうとしている煌々と輝く月。 月齢14.8 今年、最後の満月 異説百鬼夜行 ーー今宵、開幕
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