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かくれんぼ
「もういいかい」
「まぁだだよ」
公園の隅に、おれは とっておきの隠れ場所を見つけていた。
子どもなら悠に隠れられそうな大きな木、そのちょっと奥まった所にある くさむら。
おれは真っ直ぐにそこを目指す。
「もういいかぁい」
ぞうさん型の滑り台に寄りかかり、両手で顔を覆った愛ちゃん。
彼女はいつだってアイドルなみに可愛い。その上 声まで可愛いなんて、反則だ。
でも おれは、その呼びかけに応えるなんてことはしない。せっかく隠れるのに、声のする方角からバレてしまっては勿体ないからね。
だから、心の内で呟いた。
――もういいよ
「まぁだだよ」
とも子ちゃんと拓海は、まだ隠れ場所を探しているみたいだった。
「もういいよっ!」
突然、前方数メートルもないところから、拓海の大きな声が聞こえて、どきっとする。
くさむらに身を置いたおれの目の前、大きな木の影に拓海の姿があった。いろいろ考えた末、ここに落ち着いたということか。
拓海はちらちらと、愛ちゃんのいる滑り台のほうを覗いている。どうやらおれには気付いてないらしい。
拓海のやつ、そんなふうに叫んだら負けなのに。しかも隠れ場所にはあまりにベタすぎるだろ。
「拓海くん、みぃつけた」
「うわ~、やられたぁ」
案の定、拓海は すぐに見つけられてしまった。
一瞬、そのままおれも見つかってしまうかと思ったが、そんな心配はいらなかったようだ。
まさか、その奥のくさむらにおれが隠れているなんて、思いもしなかったのだろう。愛ちゃんは くるりと踵を返すと、また滑り台のほうへかけていった。
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