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譲れない、恋の戦い
――――…………
「ちょっとお母さん、お父さんのお弁当は私が作るって言ってんの! なんでもう作っちゃってるのよ!?」
「え~、だってお父さんには美味しい物食べてもらいたいじゃない?」
「だからそれは私が――」
「もちろんあなたの分も作るわよ? 大好きな唐揚げ、たくさん入れるから楽しみにしててね」
「うぐ……っ! あ、ありがとう……お母さん……」
そう……私の好きな人というのは、私のお父さん。
私の恋のライバルは、私のお母さんです。
高校生になったばかりの、まだまだ小娘な私ですが、私はお父さんのことが好きです。結婚したいぐらい大好きです、本気で愛してます。
もちろんお母さんのことも大好きです。
二人とも、大好きです。
でも私はお父さんと結婚するんです、決定事項です。
法律上、それは絶対に出来ないとわかっていますが……大丈夫。偉い人は言いました――『バレなきゃ問題ない』と。
だから私は、ライバルにして強敵、そして魔王であるお母さんを倒さなければいけません。
……いけないんですが、今日もまた負けてしまいました。
お母さんは一枚も二枚も上手です……。
「お~、二人とも随分早いなぁ。何してるんだ?」
「あら、あなた。今お弁当を作ってる途中なんですよ。ふふ、この子ったら『お父さんにお弁当を作ってあげるんだー』って言ったのに、寝坊しちゃって」
「ちょ、お母さん!?」
「そうかそうか。お父さんは嬉しいぞ~次は期待してるからなぁ」
お父さんは笑いながら私の頭を撫でてくれました。
本当はお父さんにお弁当を渡した時にしてほしかったのですが……まあ、良しとしましょう。
せっかくお父さんが頭を撫でてくれたのですから、私からは文句はありません。
「それよりあなた、今日は珍しく早起きね」
「あ~いや、ちょっと腹が減ってな。それで目が覚めたんだ」
「はぁ、全く……お母さんはちょっと手が離せないから、代わりにお父さんのご飯用意してあげて」
「は~い」
お弁当を作るのに忙しいお母さんの代わりに、私がお父さんの朝食を用意します。
その際、お皿を取るのにお母さんの後ろに移動すると、お母さんが小さく呟きました。
「――お父さんは渡さないからね?」
……その時、私の中で何かが切れました。
そして決めました、絶対にお母さんからお父さんを奪います。略奪します、駆け落ちします。その自信満々の鼻をへし折ってやります。
喧嘩を売ってきたことを、後悔させてやります。
だから今日も――私はお母さんと戦います。
決して譲れない、恋のために。
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