2/4
前へ
/14ページ
次へ
**  憲介が初めて恋を知ったのは、中学生になったばかりの頃。相手は養護教諭の若い男だった。熱を出すことが多く、そのたびに保健室で休む憲介を案じた教諭は、「特別だよ」と教科書を開いて個人授業をしてくれたり、ときには憲介の相談相手になったり、さまざまに心を砕いてくれた。  好意を抱いていても、その気持ちを自分から伝えなければ恋の実りを得ることはできない。栗原への恋心を自覚した時、憲介の胸によみがえったのは中学時代の淡い想いだった。  単に、自分よりも大人の男性へのあこがれなのかもしれない。  寂しさを抱えた心に、そっと寄り添ってくれた人を慕う気持ちを恋だと思い込んでいるのかもしれない。  そうやってあの時も何度も迷い、眠れない夜を数えた。その日々を思い起こすたび、二度とあの時と同じ思いは繰り返さないと心に決めた。それなのに……。 『先輩の気持ちは言葉だけで、真実じゃなかったんですね』  いや。それなのにじゃなく、だからこそ、だ。だからこそ、彼を……。この手で。  栗原の言葉をいつしか憲介は、自身の栗原への告白が真実であるかを試されているのだと、そして憲介に救いを求めているに違いないと理解するようになっていた。僅かな期間とはいえ、栗原を避けてしまったことを憲介は心から悔やんでいた。栗原を救いたい。教頭や、教頭の言うように父親と関係しているのだとしたら、それからも彼を救い出したい。それから……。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加