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人の気配がない建物は、漂う空気も冷たい。改装が決まった寮は学園創設の頃からあるもっとも古い建物のうちのひとつで、広大な敷地内に一棟だけが北側の果樹園に面して建っている。
人材育成に心血を注ぐ建学の志のもと、多くの優秀な人材を政財界に送り出してきた歴史ある名門校に入学を希望する者は全国に広がっており、遠方の学生を受け入れるべくその後に造られた寮は、日照などを考慮してすべて西側に建てられている。
小学校にあたる初等部から大学院までの一貫教育が行われる学園にあって、寮を使用するのは中等部以上で、それまでのように二人部屋、四人部屋ではなく現在はすべて個室。近年では、日々の学習体制が整い集団生活の中で心身をはぐくむ理念に共感し、通学可能な範囲に住む生徒の中にも入寮を希望する者が増えている。
明治時代の洋館を思わせるルネサンス建築のかつての寮は、当初は取り壊しが計画されていたが、歴史的建造物かのようなたたずまいを残して欲しいという声は内外に強く、協議の結果存続が決まった。
清掃や見回り以外では滅多に立ち入る者のないこの古い建物に、毎週金曜の夜、ほの暗く揺れる灯りのともる部屋がひとつだけある。三階の一番奥。談話室という表札が掲げられたままの部屋では──。
「せんせ、……、ぼく、きょう、好きって……、」
「……」
「告白……された」
「修一郎さんに、告白ですか。同級生、でしょうか?」
「ちが……、……せんぱい。高校の」
「高校?」
「ん……、副寮長、さん」
まだ幼さの残る栗原修一郎の頬が少しずつ赤味を帯び瞳が潤んでいくのを、「先生」と呼ばれた男は着衣のまま満足そうに見下ろす。冷たい建物の中で六帖ほどのこの一室だけが、人の熱と汗で空気までがしっとりと濡れているようだった。電気はつけず、用意された二つのランプの灯りに、ベッドに横たわる栗原の大きくはだけた白い胸が浮かび上がる。はぁ、はぁと息をつくたびに上下する小さな胸は汗で湿ったまま。黒々とした前髪はところどころ束を作って額にはりついている。この部屋に二人がやってきて、ものの数秒でいつもの行為をはじめてから一時間ほど、ずっと渇く間がない。
「ぼく、よりも……背が、高くて……、」
「その人、連れてきますか? ここに」
「うん……、だって、見せてあげなきゃ」
男は栗原の脚の間に顔を埋めたまま、少年の左の太ももをぐいと腹に寄せるように押し上げる。そうして甘い悲鳴のような声が頭上で細く長く響くのを、長い舌と指を動かしながら堪能する。
「せん、せ……、僕もう、……っ」
白髪交じりの髪は、四十代前半という年齢以上の落ち着きを感じさせる。その男の髪をつかむ栗原の指にきゅっと力がこめられた。
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