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愛するものとの別れは、いつだって悲しい。
秋の終わり――
老人は、落ち葉のつもった地面にしゃがみこんで、墓石に手を合わせた。
墓石といっても、大きな石を立てただけのものだ。だが、そんな簡素な墓が、この場合はふさわしいように老人は思ったのだった。
祈りが終わって立ち上がり、家にもどると、老妻が迎えてくれた。
「おじいさん、悲しいわね」
「ああ」
老人が目をうるませていると、ダイニングキッチンからとび出してきた男の子が、彼のズボンをつかんだ。
「おじいちゃん、お昼ご飯、早く食べなよ」
「おお、そうか。遅くなっちゃったな」
「今日のお昼はとってもおいしかったよ」
「そうかそうか」
うなずきながら、食堂へ向かう。
「お父さん、いま温めるから、ちょっと待ってね」
エプロンをつけた娘が、ラップしたお皿を電子レンジにセットし、ご飯をよそい始める。
「達郎くんは、もう出かけたのか?」
「ええ、会社のフットサル・サークルへ」
夫が休日に家族サービスをほったらかして出かけたことに、少々不満な様子だ。
おいしく昼食をいただいてリビングにもどると、孫が子猫を抱いてやってきた。
「ほら、おじいちゃん」
「おお、ありがとう」
なぐさめてくれようとする孫の気持ちに目を細め、子猫を受け取った。
悲しんでばかりはいられない、と彼は思う。
これからも、日々は続くのだ。
かわいがっていたタマは車に轢かれて死んでしまったが、タマが産んだこのミケがいるではないか。
老人が両手でそっと子猫を包むと、やわらかく温かな毛並みがもぞもぞと動き、みゅああ、と鳴いた。
〈了〉
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