ある…迷宮いり殺人事件の真相(不思議アリ)

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 ある春の週末の夕方……  彼は、そのリポーターの取材を受けた。  そのリポーターとは『月刊ミステリー』の川添(かわぞえ)というライターだった。  彼……名探偵の明地(あけち)大五郎は、食事を済ませてから、自宅の応接間でインタビューを受けた。  雑誌のライターというから明地は、てっきり風体(ふうてい)の悪い青年あたりが訪れるのだろう……と思っていた。  しかし、現れたのは若さが光る才媛(さいえん)だった。  が、彼女は開口一番に、 「先生、あの狭間(はざま)邸事件が起きてから、すでに五年の歳月が流れましたが…… それからの日々、先生は、どのようにお過ごしだったのですか?」 「無論、捜査と推理を続けてますよ……。 しかし、あの事件は、実に奇妙な事件でしてね……。 (いま)だに凶器も犯人も分かっていないのです……。 本当に残念ですがね……」 「こう言っては大変失礼とは思いますが、先生としては、一つの大きな黒星という事でしょうか?」 「いやいや、一つどころか……。 僕の黒星は、そんなに少なくないですよ。僕も人間ですからね……。 最近の例としては、アメリカで起きた殺人事件ですが、結局、迷宮入り……となってますよ」 「最初の話に戻りますが、あの狭間邸事件が起きたのが、五年前の今日でした。 いま現在の先生ご自身、犯人までの距離は……いかがですか?」 「いや……もう……ほど遠い……と言うか……。 しかし諦めたら負けですからね……。 とにかく頑張ってますよ……」  そして明地は、タバコを持ったまま溜め息をついた。  まもなく川添は、丁重に挨拶して帰っていった。  明地は、いつも推理の時に使う “思考部屋” の『イマジネーションルーム』に入った。
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