14人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
ある春の週末の夕方……
彼は、そのリポーターの取材を受けた。
そのリポーターとは『月刊ミステリー』の川添というライターだった。
彼……名探偵の明地大五郎は、食事を済ませてから、自宅の応接間でインタビューを受けた。
雑誌のライターというから明地は、てっきり風体の悪い青年あたりが訪れるのだろう……と思っていた。
しかし、現れたのは若さが光る才媛だった。
が、彼女は開口一番に、
「先生、あの狭間邸事件が起きてから、すでに五年の歳月が流れましたが……
それからの日々、先生は、どのようにお過ごしだったのですか?」
「無論、捜査と推理を続けてますよ……。
しかし、あの事件は、実に奇妙な事件でしてね……。
未だに凶器も犯人も分かっていないのです……。
本当に残念ですがね……」
「こう言っては大変失礼とは思いますが、先生としては、一つの大きな黒星という事でしょうか?」
「いやいや、一つどころか……。
僕の黒星は、そんなに少なくないですよ。僕も人間ですからね……。
最近の例としては、アメリカで起きた殺人事件ですが、結局、迷宮入り……となってますよ」
「最初の話に戻りますが、あの狭間邸事件が起きたのが、五年前の今日でした。
いま現在の先生ご自身、犯人までの距離は……いかがですか?」
「いや……もう……ほど遠い……と言うか……。
しかし諦めたら負けですからね……。
とにかく頑張ってますよ……」
そして明地は、タバコを持ったまま溜め息をついた。
まもなく川添は、丁重に挨拶して帰っていった。
明地は、いつも推理の時に使う “思考部屋” の『イマジネーションルーム』に入った。
最初のコメントを投稿しよう!