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今日の担当は調味料関係の品出し。実は醤油や食用油も重い。ただでかくない分トイレットペーパーや紙おむつよりは楽だと思う。今日は醤油と料理酒の特売日だったから棚にはもう少しになっていた。
特売分の製品を倉庫に取りに行くときに驚く光景を目にした。トイレットペーパーの棚があと数個になっている。生活必需品コーナーの今日の担当は太一だ。お気の毒と思いながら倉庫に向かって、醤油の準備をしていると、ボーディーソープやシャンプーを台車に乗せた太一とすれ違った。
「トイレットペーパー無かったぞ」
作業を続けながら太一に教えてやると
「知ってる。もう倉庫にもないんだ」
太一は飄々と言って通り過ぎて行った。
「はあ?」
声に出して太一の背中を見送っていたとき、
「売り場に出たらマスクしなさいよ」
そう言ってパートの田上さんが後ろに立つ。
「マスクっすか?」
俺の質問に田上さんが透明な店内移動用のビニールバッグから袋に入った一枚のマスクをくれた。
「更衣室にあったでしょうが」
笑いながら手渡されたマスクの袋を開けてから
「あざーっす」
と頭を下げた。
「これからお迎えですか?」
田上さんは子供二人を保育園に預けて働いている。
「お迎え行って、夕飯作るの」
「おつかれっす」
ただの挨拶、心のこもらない俺の言葉に、
「ほんと、お疲れだわ」
そう言った田上さんが軽くバイバイと手を振りながらドアから出て行った。
調味料の入った段ボールをいくつか台車に積んで、片耳にかけていたマスクをつける。
「パンデミックになったと下々が気づいたとき・・・」そんな愛美の言葉を思い出したけれど、正直言って新型インフルエンザもすぐに終息したし、サーズも日本ではたいしたことにはならなかったのだから。
そう思った俺は久しぶりにつけたマスクに息苦しさを感じながら、花粉症でなくて良かったなあと思っていたんだ。
仕事が終わって帰り際、トイレットペーパーの棚の前を通ると残り一個になっていた。なんとなく12ロールのそのひとつを持ってレジに行く。今使ってるのが最後だったからちょうど良かった。
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