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田上さんの話には驚いた。でもだからと言ってルールを破ったあげく、俺たちバイトに暴言を吐いていいという理由にはならない。
亮介と二人、黙ったまま売り場に戻り、時間が来たので俺は先に上がった。
心の中はなんとなく悶々としている。俺たちを傷つけているのは、あの爺さんをはじめ店頭に来る客だ。でもあの人たちは踊らされている。それがデマ野郎になのか、メディアになのか、田上さんが言ったように記憶になのかはわからないけれど。
爺さんのようにあの人たちにも理由があるのかもしれない、転売以外の。
そう思うと少しだけ気持ちは楽になる。きつい言葉を吐いたり、横柄な態度を取るのは弱さを隠すためなのかもしれない。自分の誤ちに心の奥では気づいているからなのかもしれない。
家に帰って晩飯を食べていた時、亮介からラインが入った。
(今夜、2時。店に来れるか?)
明日はまた朝からのシフトだ。でも何かあるからこそ亮介はこんなラインを送ってきたのだろう。
(どこ行けばいいの?倉庫?)
すぐに
(おう!)
と返信がきた。スタンプがついていないヒラガナの並びなのに、なぜか亮介のご機嫌なリズムを感じながら、とりあえず風呂に入って仮眠を取った。
午前2時。いろんな売場の男性社員さんがみんな来ている。男子バイトもほとんどが来ていた。
「なにあんの?」
太一の質問に首を振ったとき、亮介がやってきた。俺たちを見つけるとニヤニヤと笑いながら
「疲れるぞー!」
と親指を立てる。
少し向こうに店長と清水さんが何かを話している。二人とも暗い顔ではない気がする。
そのとき、雨上がりの闇の中に灯りが。まるで夜の猫の目のようにカッと見開いた光が二つ近づいてくる。トラック?間違いない10トントラックが2台、裏駐車場に向かって搬入路を入ってきた。
トラックから降りたスーツ姿の男性と店長がしっかりと両手で握手をしていた。
「よっしー、始めるぞー!」
店長の言葉に俺たちは
「おー!!」と雄叫びをあげる。高校の運動会の騎馬戦が始まるときの高揚を思い出す。そして始まった!
もう腕は上がらないかもしれない。体力自慢の太一でさえ、フラフラと俺の横に座った。亮介は少し向こうで倒れていた。
「みんな、お疲れさま!ありがとう!まあ一杯やってくれ!」
店長の大きな声に近くに来た清水さんが差し出してくれた買い物カゴから
「いただきます!」
と缶コーヒーを貰う。
それぞれの手になんらかの飲み物が渡ったとき、店長がまた大きな声で言った。
「丸山製紙さんとカモメ運送さん、心より感謝します!ありがとうございます!そしてこんな時間に手伝ってくれたみんなありがとう!明日は叫ぶぞー!!かんぱーい!あっ、もう今日だった」
店長の雄叫びにそれぞれが笑いながら
「かんぱーい!」
と続ける。プルトップを開けるのもダルい。でも清々しかった。そしてワクワクしている。
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