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「あのジジイ、ギャフンと言わせてやる!」  隣にいた太一がジュースの缶をグシャと握り潰した。例の爺さんにレジで酷いことを言われたのは太一の彼女の女子高生だったらしい。  そんな太一の方は見ずに田上さんに聞いた話をする。 「あの爺さんさあ、配ってるらしいぞ、トイレットペーパー」 「配ってる?」  田上さんはそう言っていた。 「町内回ってさ、年寄りだけが住んでいる家にいくつかずつ配って歩いてるんだって。トイレットペーパーってさ、かさが高いから年寄りには買いにくい商品らしい」  田上さんは補助車のことを教えてくれた。高齢の人たちが押しながら歩く補助車の前には荷物を入れる鞄部分があるけれど大きくはない。12ロールのトイレットペーパーなんて入らないし、入ったとしても他の買い物ができなくなる。だから皆さん必要になったときに購入していたらしい。しかも小さなパックで。 「今回のトイレットペーパーパニックが起こったとき、備蓄してる高齢者世帯なんてほとんどなかったらしい。まあデマなんだからいずれ戻ることは俺たちにはわかっていたけど、若いときにオイルショックを経験してる高齢の人たちは毎日気が気じゃなかっただろうな、もしあのときみたいに長引いたらどうするんだって。朝から列に並んでも足が悪かったりするから結局買えなかったりな。近所の小さな薬局やコンビニにはまったく入ってこなくなったし、心労で体調崩す人も出てきたんだって」  あの爺さんは自分がアシスト付きの電動三輪車に乗っているから、20分かけてここまで買いに来ては手に入れたものを老人会の人たちに配って歩いていた。田上さんは 「そんなこと本当は若い私たちが気づかないといけなかったのにね」 と申し訳なさそうな顔をしていた。 「・・・だからってあんな言い方するべきじゃない」  太一の口調はさっきよりトーンダウンしている。 「そだわな。でもまあ彼女に教えてあげてよ、ちょっとは気持ち楽になるかもしれんから」  太一が黙って頷いた気がする。それに今日オープンしたらきっと大丈夫だ。あの爺さんも往復40分かけて、いやオープン前から並んでたんだからもっと沢山の時間を使ってここに来る必要はきっと無くなる。きっと間違いなく!今日、オープンすれば。  さっきとは少し違うワクワク感を抱きながら、缶コーヒーを飲み干した。
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