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 まさかこんなことが起こるとは昨日は考えていなかった。  普通に学校に行って、そのままバイトに行った。バイト先では同じ大学の亮介や太一とやっぱりモテるには運動部だって話で盛り上がったあと、それぞれのセクションに分かれて品出しや検品の作業をした。時間まで働いて明日のための陳列を完璧にしてから、家に帰って店で買った弁当を食べて風呂に入って寝た。  学校に行くとスマホを片手に近づいてきた愛美がぼつぼつ本当にヤバイって、新種のウイルスが日本でも拡散されるに違いないって話をしてきたので、誰がかかったってわかってるんだからそんな心配いらないんじゃね?って返すと、呑気すぎると怒られた。 「パンデミックに向かって動いていることが私たち下々にわかったときは既に手遅れなのよ!」  いつも以上にキツい口調で言った愛美に 「ごめんごめん、心しておきます」 って心にもない返事をしたんだ。  そんな風に呑気バクハツのまま、俺はいつもどうりバイト先の大手スーパーに向かった。 「なんか変なことが起きてるらしい」  そう言ってきたのは売り場主任の鈴木さんだった。 「変なことってなんすか?」  ユニフォームに着替えていた俺たち夕方からバイト組に、 「トイレットペーパーがな」 と言ってから、 「おまえら『オイルショック』って知ってるか?」 と聞いてくる。  オイルショック・・・小学生のとき社会科の授業でそんな言葉を聞いた気がする。確かトイレットペーパーが大売れになったんだよな。  トイレットペーパー、店内にいつも並んでるのは12ロールのものでシングルとダブルがあっていろんなメーカーが出している。再生紙を使ったものは安価で、お尻に優しいって謳ってるのや香りつきのは高い。そんなに毎日飛ぶように売れるものではないけど、とにかくカサが高いし運び込まれる段ボールもでかいうえに重い。うっとうしい品出し製品の5本の指には入る。 「あの時と同じ現象だって、本部から連絡あったらしい」  なんだ?つまりトイレットペーパーがバカ売れってこと?のんびり動く生活必需品なんだからいいんじゃね?そう思った。まさかあんなことになるとはその時の俺は微塵も考えず、でもやっぱりあのでかい段ボールにカッターを入れて、商品を積むのはやだなって思ってたんだ。
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