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キッチンはカウンター内ではなく、その隣、翡翠色のビーズのれんで仕切られた先にあるらしい。店員さんが出入りしていた扉と奥で繋がっていて、のれん越しに私の居場所を確認した彼は、今度はカウンターのほうから登場した。
お待たせしました、と運ばれてきたのは、青磁のお皿に乗せられた紅茶のシフォンケーキ。ざっくりとした厚切りにホイップとミントの葉が添えられ、思わず喜びの声をあげてしまう。
「わあ、美味しそう! いただきます!」
まずは、そのままひとくち。ベルガモットがほわっと香る。アールグレイの茶葉を使っているらしい。しかも、ふんわりしっとり。幸せの食感だ。
お次はホイップクリームとともに。増幅された甘さが口いっぱいに広がり、頭の芯までジーン。思わず恍惚のため息がもれる。
おおお、なんてこった! この期におよんで当たりのお店に出会ってしまうとは。もっと早く、このエリアを探索していれば。これが最後なんて後悔しかない。
「こちらもどうぞ。カモミールティーです」
黄金色を閉じこめた、ガラスのカップが置かれる。ほんのり林檎のようなフレーバーを流しこめば、あたたかさがお腹に落ちつき、心がほどけていく。
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