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「正直に。誠実に。感謝と思いやりを大事にせんといかん」
幼いころ、母方の祖母が言っていた。それは、こずるい知恵を授けようとする両親の教えよりも圧倒的に胸に響き、その思想どおり懸命に日々をおくる姿に子どもながら感動すらおぼえた。
この人の心はぴかぴかの宝物だ! 私もこんな大人になりたい!
そう思ったからこそ、つたないながらも可能なかぎり『正直』『誠実』『感謝と思いやり』を心がけてきた。
……まあ、その結果たどり着いたのが『無職』なわけですが。
現状を再認識。ふうっと深呼吸。九月なかばの晴れわたる午後。山下公園のベンチに座り、カフェモカで一息つく。市営地下鉄の関内駅からスタジアムのある横浜公園経由でここまで歩いてきたのは、引っ越す前に好きな景色を目に焼きつけておくためだ。
大学進学を機に移り住んで五年ちょい。みなとみらいのランドマークタワーや観覧車もいわゆる〈横浜〉らしくて好きだけれど、両親がはまっていたドラマの影響もあり、ベイブリッジに氷川丸というのが地元にいたときから思い描いていた情景だ。
おまけにこの場所は、なんだかとっても浮世ばなれしていて。時代も場所もファッションも違うけれど、昔なにかで見たことのある絵画――たしかスーラのグランド・ジャット島の日曜日の午後――を彷彿とさせ、訪れるたび癒される。
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