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その日の晩、麻衣ちゃんに電話をする。悩みぬいたすえ蓮花さんにお世話になるほうを選んだ私の決断を、麻衣ちゃんは惜しみながらも賛成してくれた。
「日和が決めたことだもんね。応援するよ」
「ありがと。うまくいくかわかんないけど、せっかくのチャンスだから、やれるだけやってみたくて」
どちらも同じくらい魅力的な話で、どっちにしろリスクがあるなら、自分のペースで進めていけそうなほうがいいと思った。麻衣ちゃんの会社は、話を聞くかぎりスピード感が求められる。もたもたしがちな私はお荷物になること必至だ。
「けど、なにかあっても家とごはんの保障あるからやれるってのが、我ながらズルイなぁと」
「いいじゃん、誰も迷惑がってないんなら。にしても嬉しいよ、日和がそんなふうになってくれて。なんていうのかな、自己肯定感が低かったっていうか。それがずっと、もどかしくて悔しくてさぁ」
予想外。てっきり「甘えてる」と叱りとばされでもするのかと。
「ごめんね。そのせいで日和を追いつめてたとこあったと思うんだ。厳しいこと言うの逆効果だったよね。職場の人に指摘されて、こないだ気づいた」
反省の弁をしきりに口にされ、根強く残っていた麻衣ちゃんへの恐怖が綿毛みたいになって飛んでいく。よくも悪くも裏表がない性分。だから本当に、私を傷つけるのが目的じゃく発破をかけていたんだろう。
「ううん、私こそ。心配してくれてありがとう。ちゃんと自信もっていけるように頑張るよ」
次に会うのが待ちどおしくなった。げんきんかもしれないけど、急にそんなふうに思ってしまった。
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