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現実逃避にいそしみながらひとしきり海を眺めたあと、公園を端まで歩くことにした。耳心地のいい音をあびて中央広場の噴水そばを通ると、ふと寂しさがよぎる。港の見える丘公園に負けず劣らずここもバラの名所だけれど、ちょうど春バラと秋バラの見頃の狭間。今月末にアパートを引払う身としては、もう満開を拝めないのが残念でならない。
記念撮影に興じる人びとを邪魔しないよう、なおも進む。新しい水音が先のほうから聞こえ、石のステージが見えてきた。文字どおり、石でできた半円のステージ。その奥、蛙にも魚にも見える顔の上から、どしゃぶりのように水が落ちている。このあたりは芝生ゾーンや噴水まわりほど人がおらず、それはそれでほっと安らぐ。
脇にある階段をのぼって歩道橋をわたれば港の見える丘公園方面だけれど、そこまでの気力体力はないので折りかえし、噴水まで戻る。中央口のとこから出てまっすぐいけば、青龍神を守護神とする青い柱の朝陽門。お腹もすいたことだし、ひさびさに中華街で腹ごしらえしていこうか。と、公園前の道路をこえて少し歩いたところで、衝動的に横道にそれた。これまでお決まりのルートしか知らなかったのを、急にもったいなく思った。どうせ最後だからと冒険心もうずいた。
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