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いくつか道を曲がったりし、あてもなくうろついていたら、とあるビルの軒下の看板が目にとまった。木板に焼きつけられた円の内側、沿うように三日月のマーク。中央には〈ヒヅキヤ〉の文字もある。窓にはロールスクリーンがかかっていて中の様子がわからないけれど、なにかしらのショップではあるのだろう。
木製ドアにはめこまれたガラス部分に近づき、そっとのぞき見る。カウンター、テーブル、ソファー。雰囲気からしてカフェのようだ。幸い、お客さんはいない。人間苦手病をこじらせている今の私にはうってつけ。よし、これもなにかの縁だ。せっかくだからここにしよう。
扉を押しひらく。喫茶店然としたドアベルが、からころんと響く。
「……あれ?」
思わず小さく声がでた。店内は無人。来客を告げる合図がしたのに、店員さんの現れる気配もない。
カフェだというのは私の思い違いだったのかな、と不安にかられながらも、あたりを見まわす。漆喰の壁と板張りの床。オフホワイトとダークブラウンを基調とした、ナチュラルテイストなしつらえだ。入ってすぐの左手、ウォールシェルフに並べられたのは、ぐい呑みや小瓶、硝子の人形など。どれも少し古びていてディスプレイにも見えるけれど、それにしては和風、中国風、欧州風と統一感がない。もしかして古道具屋さんだったりするのかな、カフェ併設の雑貨屋さんみたいな形態の。
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