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「今日どうする?どこか寄って帰る?」  会社を出た所で、恋人の美希がしなだれかかってきた。 「そうだなぁ…」  返事は決まっているのに俺が焦らすように考えるフリをしていると、後ろから名前を呼ばれた。 「遠藤さん。お待ちしてました」  派手なスーツをだらしなく着崩し、下卑た笑みを顔に貼り付かせた背の高い男。 「誰、この人?」  男の異様な雰囲気を感じとったのだろう、美希が不安そうに腕を掴んでくる。 「あ…えっと……ちょっとした知り合い。後から行くから、いつもの店に先に行っておいて」 「でも…」 「大丈夫。すぐ追いつくから」  不安げな美希の背中を押しちらちら振り返る背中が見えなくなるまで見送ると、男にちらりと視線を送り、美希とは反対の方に歩いて行く。男も無言で付いてくる。 「困るよ!会社には近付かないでくれって、言ってるだろ!」  幸い周りには誰もいなかったが油断はならない。こんな風態の悪い連中と付き合いがあると知れたら、俺の会社での地位にひびが入る。 「でもねぇ遠藤さん。最近ちょっと返済が滞ってませんか?」 「あ…後3日!3日後には給料が入るから…」 「じゃあ後3日だけ待ちますけど…」  そう言うと、男はにやにやと笑いながらゆっくりと顔を近付けてきた。 「3日後にお支払いいただけなかったら、彼女さんに払ってもらいましょうかねぇ」 「かっ…彼女は関係ないだろ!」 「そうですよねぇ…」  男の笑いが冷たいものに変化した。その変化にぞくりと寒気が走る。 「いざとなれば、お金なんかいくらでも用意出来ますもんねぇ。遠藤さん」 「なっ、何の話だ…」 「いやいや、お惚けにならないでください。遠藤さんのお得意様なら、多少は……ねえ?」 「なっ…!客の金に手を付けろと言うのか!?」 「まさか!そんなことは、ぜーんぜん言ってませんよ!ただね…」  男が笑みを収め、冷たく鋭さを増した目で俺を睨む。 「こっちも慈善事業してるんじゃないんでね。金を返してくれれば問題ないんですよ、どんな手段を使っても」  男の言葉に、心臓が縮み上がるのを感じた。
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