第一の怪奇現象 付喪神は部屋にいる

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ガタン、ガタン! タンスがたてる奇妙な音に、一気に目が覚めた。 「……またか。」 今は春休み半ば。 一週間ほど前から住んでいるのですでに七日から九日くらいは怪奇現象を経験したことになる。 少しは慣れてきたが未だに時々度肝を抜かれるし、怖いものは怖い。 というか、夜中に怪奇現象によって起こされるのが嫌だ。 ふいに、押し入れの戸がカタンと動いた。 当然俺は押し入れに近づいてはいないし、触ったなんてとんでもないんだが。 ……こういうホラー系はやめてほしい。 幸いなことに窓に血だらけの顔が浮かびあがるとか幽霊が部屋を歩き回るとか、そういう現象は起きていない。 人魂に会ったことも今のところない。 基本的に、物が勝手に動く、あるいはそれによって変な音がするってだけだ。 だからその分安心ではある。 始めの夜は怖くて布団にシミを作ったけどな。 ぞわぞわと変な音が聞こえてくる。 話し声だか、何かが移動する音なのか。 部屋をゆっくりと見回した。 狭いが日当たりはよく、布団の足を向けている方に低い円形の机がある。 寝ぼけて足で机を蹴り上げた思い出があってからは、布団と机の間で距離をとるようにしていた。 たんすは部屋の隅のほうに位置していて、隣のドアを開けると洗面所と風呂だ。 ガタン、ガタン! 毎日のように怪奇現象が起きると、自暴自棄になりそうだ。 というか、夜中に変な音をたてないで欲しい……まったく迷惑な話だ。 カーテンがふわりと揺れた。 窓は開いていないし風もない。 なのに。 ふわふわふわ……。 たんすから音がしなくなったかわり、カーテンが生き物のように揺れている。 怖い。 今夜は悪夢を見そうだ……。 ちなみにここに来てからは、怪奇現象に襲われているにもかかわらず一度も悪夢を見ていない。 しかし、悪夢を見ないからいいなんてことはなく。 現に、俺は怖くて今でもトイレに行く度窓やトイレの中を確認しているのだ。 とりあえず布団に潜り込んで目を閉じた。 ガシャン! ……何だよっ! 飛び起きたが、部屋に異常はない。 洗面所か? 怖くて見にいけない。 明日の朝確認しよう。 鏡が壊れてたりしたら嫌だな。 ガシャン、ガシャン! 諦めて布団にもぐる。 今夜こそは何が起きても眠ってやる! 絶対に起きないからな。 ガシャン! ガシャンガシャンガシャン、ガシャン! ……怪奇現象じゃなく、泥棒か? ガシャン、ガシャン……。 怖い怖い怖い。 体中に震えが走る。 ガシャン! しかもうるさくて眠れない。 パチっ。 あれ? 何の音だ? 目を開けると、電気がついていた。 「……。」 これが水道から水が流れているとかなら、まだオカルトチックだったかもしれない。 恐怖で布団に潜り込んだ事だろう。 だが今は……。 「………!」 ふざけんなあ! 電気代考えろよ! いくら怪奇現象だからってこれはない! 俺は貧乏なんだ、こまめに電気を消して水道の蛇口も閉めてんのに怪奇現象のせいで電気代が増えたらどうしてくれるんだよ! 起き上がって垂れ下がった紐をひく。 パチン。 ……消えない。 パチン。 おいちょっと待て。 パチン、パチン。 これはまさか、 パチンパチンパチンパチンパチン……。 朝まで電気つけっぱなし!? フラーッと気が遠くなる。 布団に倒れ込んだ次の瞬間、俺の意識はなかった。
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