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終わった。
怪奇現象全てが。
さっきまで揺れていたカーテンが動かなくなり、カバンからは何の音もしなくなり……。
代わりに、押し入れの戸が、小さくカタン、と音をたてた。
小さく、まるで、俺に気を遣ってるみたいに。
怖がらせまいと、思っているみたいに。
「な、何だよ……?」
なんか今、なんかわかんないけどなんか良心傷つけられた気がする。
関わろうとしなかった自分が悪い、みたいな。
罪悪感、なのか?
後ずさっていた自分が、情けなく思われるような。
この怪奇現象、本当人の心をつかむのが上手い。
「……あーあ。」
自然とため息が漏れた。
こうなったらもうヤケだ、そもそも怪奇現象相手にしてる時点で勝ち目なんてなかったんだ。
呪いにかかったとしても、一か八か……。
ふうと小さく息を吐く。
そうだ、たかがシミだ、何も起こらない可能性が高い、頑張れ俺!
自分でうなずいて、シミに手が届くように押し入れの二段目に這い上がる。
あれっ?
そういえばシミに、何をすればいいんだ?
とりあえず触ってみる。
何も起きない。
けど、何だか違和感が……。
そうだ、なんだか軽いんだ。
シミの部分だけ。
押せば持ち上がりそうな……まさかこれが怪奇現象の正体!?
一気に緊張する。
恐る恐る、腕に力を加えてみた。
持ち上がる。
少しだけ。
あとちょっと!
さらに押すと、中から何か落ちてきた。
「うわっ!?」
一瞬凄く驚いたが、よく見るとお守りだった。
小学生がよくランドセルにつけてたりするやつ。
赤い袋に長方形に切り取られた金色の布が貼りつけられていて、『御守』と書かれている。
「……なんだこれ。」
お守りってとこからして多分これが怪奇現象の元凶なんだろうけど、見たところ無害そうだ。
おどろおどろしい感じも全くない。
手に取って、じっくり見てみた。
何の変哲もない普通のお守り。
「おっかしいなー。」
何気なく、本当に何気なく、何の気なしに『御守』の文字を指でなぞる。
次の瞬間、俺は死ぬほど驚いた。
今までで一番驚いた。
目の前に、女の子が一人、へたりこんでいたのだ。
「わああああぎゃあああああ!!!」
悲鳴を上げて後ろに飛びのいた瞬間、押し入れの壁に背中を勢いよく打ち付ける。
後になって、よく押し入れから転げ落ちなかったもんだと思う。
「いっ…て……。」
背中をさすりながら、俺は女の子を眺める。
切りそろえられた黒髪。
腰の少し上まで伸びている。
肌は信じられないぐらい白い。
雪のように白いとか豆腐みたいに白いとかそういうレベルじゃなく、牛乳よりも雲よりも白い。
そして、見たこともない服を着ていた。
たっぷりと膨らんだ、足元をしぼったズボン。
足首のところに、細いリボンのようなものがキツめに巻き付けられていて、リボンから下はスカートのすそみたいにヒダがついて広がっていた。
色は水色と青の中間くらい。
上の服の色は白。
巫女さんとか陰陽師が来てる服に似てる、というかそのものだ。
で、
「……?」
不思議そうにこちらを向いた顔(彼女はさっきまでうつむいていた)をみた瞬間、確信する。
知り合いじゃない。
会ったどころか見たこともない。
絶対だ。
「え、えっとさ。……君、だ。」
れ、と言う前に突然女の子が身を乗り出した。
「見えるの!?」
「え?」
「あっ、そ、その、ごめん、なさい……。お、驚きますよね、普通。」
興奮したかと思ったら、もうしおらしく落ち込んだ様子を見せている。
何なんだこの子?
「えーっと、見えるって、どういうこと?」
「はい。あの、そのままの意味です、顔とか、体とか、_____見えますか?」
「あ、当たり前じゃん。」
何だろうこの子は……。
「あれ、そういえば、ここって、そ、外……?あれぇ?」
しきりに首をひねる女の子。
何のことか聞こうとしたが、その前に女の子の目から涙があふれ出した。
「うっ、うわあああ――――――!!」
「!?」
な、何で急に泣くの!?
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