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数分後、俺達は向かい合って部屋に座っていた。
ちなみに女の子が正座で俺が胡坐。
「えー、まずは状況が知りたいんだけど、君の名前何?本当に付喪神?」
「あ、その、はい。自己紹介が遅れちゃってすみませんでした。私、明るいって書いて明です。さっきも言いましたけど付喪神です。」
小さな声だが口ごもることなく、どうやら付喪神らしい女の子・明が答える。
更に明は丁寧に頭を下げて言葉を重ねてきた。
「あの、先程はどうもありがとうございました。」
「ありがとう?」
言いたいことは色々ある、というか色々どころじゃないが、真っ先にそこが気になった。
「驚かせてごめんとかじゃなく、ありがとう?」
「えっ?あ、その、すみません……そうですよね、まずは謝罪からするべきですよね。えっと、さっきは驚かせてしまってごめんなさい…。」
礼儀正しい付喪神だなあ。
「その、他に聞きたいこととか、何かありますか……?」
「えーっと、まず付喪神って、長い間大事にされた物に宿る神様、みたいなものだよな?」
「えーっと、はい、まあ大体あってます。」
「大体?どこか違うのか?」
「その、えっと、あの、この世にある物質には、例えばそのカバンとか、あのカーテンとか、全部神様が宿っているんです。ただ、神様と言っても私でも目に見えませんし、オーラというか、神様が持っている力もわずかで、能力もほとんどないんです。大切にされず乱暴に扱われたりすると、神様が出て行ってしまうこともあります。けど逆に大切にされていると神様の形はどんどんはっきりしてきて、長い間大切にされることで付喪神になるんです。付喪神になれば不思議な力も使えますし、一部の人には目に見えるようになります。ですからつまり、長い間大切にされてきた物に付喪神が宿るのではなく、物が長い間大切にされるともともと宿っていた神様が付喪神になるんです。」
「ふーん、成程ね……ちなみに明は何の付喪神なの?」
「えっと、これ、です。」
「それのこと?」
「そうです、これです。」
セリフだけ見れば何が何やらだが、明が示したのはさっきから大事そうに手に持っているお守りだった。
「それの付喪神?」
「はい。」
「それって、長い間大切にされてきたの?」
「はい。」
明ははっきりと頷く。
「そ、そっか……あ、そうだ、話を戻すとさ、さっきお礼を言ってきたのは、どうして?」
「あなたが、封印を解いてくれましたから。」
「封印!?」
……いけない、いけない。
思わず素っ頓狂な声になってしまった。
「封印って、どんな封印……?」
「宿元対象から出られなくなる封印です。」
「ヤドリゲンタイショー?」
「あれっ?人間は知らないんでしたっけ……?」
「知らない。」
「そ、それはすみません……。」
そう縮こまりながら、明は説明した。
「神が宿っている物のことです。私の宿元対象はそのお守りということになります。」
「要するに、その神様が宿ってる物を宿元対象っていうのか?」
「そうです。」
「で、その宿元対象から出られないっていうのは?」
「私達付喪神は宿元対象にまつわる姿に変身したり、あるいは私のように人の姿を借りたりすることで人の目に見えるようになるんです。特に霊感がある人や私達を信じている人には見えやすいです。けれどその変身が出来ない、つまり人前に出られないように宿元対象であるこのお守りに封印されていました。」
なるほど、これで「ここって外」と言った理由が分かった。
あの時はここって屋内じゃんと思っていたが、お守りの外に出ることができたという意味だったのだ。
「封印されてたのっていつからだ?」
「ざっと六十年から八十年くらい前になります。」
長いのかもしれないが、百年とか三百年を予想してたのでそんなに驚きはない。
けど人間にしたら十分長いから、俺は言った。
「長っ!え、じゃあそんなに長い間何もできなかったのか?」
「あ、いえ。何もできなかったわけではなくて、能力の一部が使えていました。」
「能力の一部?」
「私の場合は視界に入っている物を一度につき三つまで操る能力です。」
「凄っ!」
何だよ物を操るって、最強じゃん。
「他にどんなのがあるんだ?明の場合ってことは、他の付喪神の場合もあるんだよな。ってことは他にも能力があるんだろ?さらに言うと、能力の一部ってことは他にも明は能力を使えるってことだよな。」
「えーっと、他の付喪神は私自身もよく知らないですけど、私と似たり寄ったりの能力も私より遥かにすごい能力もたくさんあるみたいですよ。私の他の能力で言えば一番得意なのは物を操る能力ですけど、一番すごいというか難しいのは、空間移動の術です。」
「空間移動の術って何?」
「短時間で目的地に移動できる術です。仕組みが色々複雑なので人間には真似できませんが、稀に少し特殊な人がいるので、そういう人は私達が手を貸せば私達と一緒に移動することもできます。けどどんなに特別でも、自力でこの術を使える人間はいません。瞬間移動とか、そういう能力を持った人が時々いるみたいですけど。」
「すげー、ワープするってこと!?」
「今の言い方で言えば、それが一番近いです。あ、あと使えるわけではないのですが、ちょっとした効果があったりしますね。」
「効果?どういうことだ?」
「ここに来てから、悪夢を見なくなったのでは?憎しみがなかったり妖怪化していなかったりする、要するに自分で言うのも何ですが良い付喪神がいる場合は周りの人が悪夢を見なくなるんです。わかりました?」
付喪神がとんでもないことはよくわかった。
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