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時刻は夜の七時。滝本は市内に入り、適当な宿を探した。見つけたのは素泊まり四五〇〇円の民宿、シングルで布団は一組しかなかった。
「あー、疲れた」滝本はそう言って布団に横になった。長時間のドライブに関係者への聞き込み、体の節々が強張り、あちこちが痛かった。「今回は残念だったな。でも、次があるから」
「うん」生首は顔を横にして畳に転がっていた。そうやって切断面をさらけ出されると内部が見えるので、つくしのように床から生えていて欲しかった。「残念だったね」
「殺される理由としては良かったんだけどね。被害者に全く非がなかったっていう点では」
「うん」
タツオミはそう言い、畳をごろごろと転がった。
「止めろよ、その変な動き」
「うん?」ごろごろ、達磨のようにでんぐり返しを繰り返しては同じ場所をぐるぐると巡る。
「あんまり、気が乗ってない感じだな?」と、滝本は言った。
タツオミは動きを止め、逆さになった状態で滝本を見た。首の切断面がばっちり見える角度で滝本はげえとなる。
「辛くなった?行くの止める?」と、滝本。
「ううん。辛くない」と、タツオミは言った。「でもね、分かんないけど、嫌だなって思って。もしそうならって」
「そうならって?」
「女に、恨まれていたらって」
「でも、それを知りたいんだろ?」と、滝本は言った。「自分が何者かっていうのを知るのは怖いよ。でも、あんたは死んでバラバラにされてる。これ以上に怖いものなんてないだろう?」
それは聞いた生首は少しだけ笑い、少しだけ俯いた。
「ほら、もう寝ようぜ。明日も早いから」滝本はそう言い、脱いだセーターで鳥の巣のような寝床を作ってやった。「明日は、きっと見つかるから」
タツオミは丸まったセーターに転がっていき、雛鳥のように巣の中に落ち着いた。幽霊は寝もしないし、疲れもしないけれど。
「おやすみ」と、滝本は言った。
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