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「これ、これが諸積先生」
少年の自宅の玄関先、開いたアルバムに写っていたのは精悍な顔つきをした若者だった。タツオミとは似ても似つかない顔をしていた。諸積龍臣はタツオミではなかった。滝本は脱力して床に倒れかかった。また、振出しに戻ったようだった。
ホテルに帰る道すがら、ビルや商業施設が作り出す夜景を眺めながら、タツオミはぽつりと言った。
「人を殺すのって、色々な理由があるんだね。恨みだけだと思ってたけど、それだけじゃないんだ。俺を殺した人には、どんな理由があったんだろう」
滝本はタツオミを横目に見ながら、「どうあって欲しい?」
「分かんない。だけど、嫌われているのは嫌だな。さっきの先生みたいに、別の理由で殺してくれた方が良い」
「そうかもね」
タツオミは振り向きもせずに、ずっとウインドウの外を眺めていた。半透明の頭の向こうに見えるビル群の、キラキラとした光り。生きた友人ならば、その肩を叩き、背中に手を置いて慰める事も出来るだろうが、タツオミにはそれが出来なかった。
それがなんだか物悲しかった。
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