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滝本は敷地の外に停めた車に向かった。タツオミもぴょんぴょん彼の後ろを付いて助手席に乗り込もうとした。滝本はドアを開けてやろうとしたが、タツオミは幽霊らしくドアをすり抜けた。ああ、こいつお化けだったんだと、滝本はなぜかそこで思い知らされた。
「どんな話だった?」と、タツオミは言って助手席に落ち着いた。
「聞きたい?」と、滝本は言った。「気分が良くない話だよ」
タツオミは頷く代わりに何度か瞬きをした。滝本は仕方なく、浅井氏から聞いた話をオブラートも包まずにタツオミに話してやった。
期待に目を輝かせていたタツオミの顔も、話が核心に進むにつれ眉尻が下がり、口は真一文字、しまいには一言も口を利かなくなった。その目に、涙のようなものも滲んでいた。
「俺、酷い男だね。恨まれるのも仕方がないね」と、タツオミは言った。「だから俺は殺されちゃったんだね。全部、俺のせいだったんだね」
「でも、まだ決まった訳じゃないから」と、滝本は言った。「調べる範囲を広げれば、もっと別の事件が出てくるかもしれないし」
「でも、俺かもしれない」
タツオミは言い、目からぽろぽろと涙を溢し始めた。雫は半透明な頬を流れ、首に垂れ、シートに落ちると同時にシャボン玉のように蒸発した。
「違うって、多分違うよ。別の人だって」
「どうして分かるの?」生首はしゃくり上げた。「俺、酷い人間だった。これは罰なんだよ、きっと」
「だから違うって、俺が証明してやるから」号泣する生首を前に、滝本はついつい言ってしまった。「興信所でも、探偵でも、元警察官のアドバイザーとかにも話を聞いてやるから。なっ?一回、家に戻って作戦を立てよう。それでいいだろ?」
「うん」タツオミはそう言い、鼻を啜った。「ありがとう」
タツオミの鼻から鼻水らしきものが垂れた。滝本はタオルで拭ってやろうとしたが空振りし、腕は宙を浮くばかりだった。
「取り合えず、家に帰ろ?なっ?」と、滝本は言った。
車の外は春らしい陽気だった。桜の花が満開になるのも、あと少し。
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