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右隣は不在だったが、左隣は在宅していた。隣人は滝本も顔を知っている職場の先輩で、困った事があると何かと助けてくれる優しい先輩だった。
「こんにちは、お隣、小倉さんだったんですね」滝本は言い、のしをつけたタオルを手渡した。「今後とも宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくね。タオル、ありがとう」小倉はそう言い、滝本の背後に目をやり、「彼女さん?めっちゃ美人さんじゃん」
「はじめまして、滝本がお世話になっております」と、智子が言って深々と頭を下げた。
「初めまして。こちらこそ滝本くんにお世話になってます」
滝本は言う。「彼女って言っても、近々苗字が変わるかもしれないんですけど」
「あれ、もうそんな話になってるの?」小倉は言い、目を丸くして二人を見つめた。「いいね、青春だね。結婚式には呼んでよ、先輩代表として挨拶するから」
「その時は宜しくお願いします」滝本は言って笑った。「それにしても、ここの社宅って奇麗ですよね。築年数が経ってるって聞いてたから、もっと古いのかと思ってたんですけど」
「ああ、そうね。三十年は経ってるけど中は奇麗でしょ?何年か前にフルリノベーションしたのよ。タイミングが良かったね」
「本当ですね」滝本は言い、頭を下げた。「では僕達はこれで。明日からも宜しくお願いします」
滝本はそう言ってドアを閉め、智子とエレベーターホールの方へ歩いて行った。
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