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風呂上り、滝本は布団を敷き、寝っ転がって携帯を弄っていた。部屋は新築のように奇麗で、駅前には美味しい蕎麦屋があり、隣人は優しい先輩だった。今の所、何一つ問題はなかった。新生活は幸先の良いスタートを切ろうとしていた。
智子からメールがあった。可愛い絵文字付きで。
“新居での夜はどうですかー?”
滝本は返事を返す。
“夜は静かでいいよー。閑静な住宅街って感じ”
“進くん、勘の良い所があるからね、気を付けてよー”
“気をつけるって、何よ?”
“何か変な物見ちゃうとか笑”
“嫌な事言うの止めろよー泣”
“冗談笑 そんな奇麗な部屋だったら、幽霊も出ないよ”
滝本は笑う。早く智子と一緒に住めたらなと、彼は思った。
“おやすみ”と打ってテレビを消し、電気を消す。今の時刻は夜の零時。布団に横になるとあっという間に意識が薄れた。引っ越しやご挨拶の疲れが残っていたのかもしれない。
意識を手放そうとするその時、目の前を白い光の筋のようなものが通った。見間違いかと目を擦り、暗闇に目を凝らしてみるがそんなものは姿形もない。
ぼけたかと寝返ったその先に、男の生首があった。三十代ぐらいの。青白い。フローリングから生えるように、つくしみたいににょっきり頭を出していた。
余りにも突然で、余りにも唐突すぎて滝本は叫ぶのも忘れた。智子は、奇麗な部屋なら幽霊は出ないと言っていた。けれど、ここで一つの教訓。
部屋がどんなに奇麗でも、幽霊は出る時には出るのだ。
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