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カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。気持ちの良い一日の始まり。滝本は布団から起き、伸びをした。爽やかな朝に相反して、枕の横には昨日見た生首がしっかり床から生えていた。夢ではなかった。頬を抓る元気もなかった。
「おはよー」と、生首は言った。「よく眠れたー?」
「お気遣いどうも」
滝本は朝の身支度を済ませ、ダイニングに座って朝飯を食べたが、その間もずっと、生首は滝本を見つめ続けていた。それこそ、穴が開くほどに。
「それ、やめてくれない?」トーストを齧りながら、滝本は言った。「気が散るっていうか、なんか集中できないから」
「ごめんね、何か嬉しくて」生首はそう言ってニコニコ笑った。「お喋りって楽しいね。でも、どうして進は俺が見えるんだろうね?不思議ー」
呼び捨てかよと思ったが、口にはしなかった。
「昔から勘だけは良かったんだよな。探し物の在処が分かったり、病気する人が分かったりって。何と言うか、今回はチャンネルが合ったんじゃない?タツオミさんと。よく分かんないけど」
「俺も、全然分からない」と、タツオミも言った。
「まあ、とにかく会社の人に話を聞いてみるよ。何か分かるかもしれないし」
滝本はそう言い、トーストをオレンジジュースで流し込んだ。
職場の休憩室で、たまたま小倉さんと一緒になった。滝本はそれとなく世間話をし、それとなく話題を社宅の話に誘導した。
「えっ。あの部屋?」小倉はそう言い、怪訝な顔をした。「金縛りにねえ、確かにそれはちょっと気になっちゃうね」
「疲れてたんですかね。でも、こういう経験は初めてで」
「そうか、俺もここの社宅は長いし、会社の人達とも親しいけどそんな話、聞いたことがなかったな」
「そうですか。でも、昨日も全く寝れなくて。こんなんじゃ仕事に集中できないなって」
「そういうのに過敏な人っているからね」と、小倉は言った。「俺も入社以前の事は知らないから、聞いてみるよ。古くから居るような社員さんに」
「すいません、お願いします」と、滝本は頭を下げた。
滝本は昼休み、図書館に行って古い新聞やネットの記事を隅から隅まで調べた。そこで分かった幾つかの事があった。幽霊の為に動くのは面倒くさかったが、無念を晴らして成仏させてやれば、滝本は引っ越さなくてもいいし、あの部屋で智子と暮らせるようにもなる。無理やり除霊できないのなら、この方法しかなかった。
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