悲鳴

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 あれから、一か月が経つ。母は訪れなかった。だから今日も拷問が待っている。白い防護服姿の二人組は耳を覆うイヤーマフを付けていた。何が始まるんだろうか。大きなステレオが運ばれてきた。そいつは大型のテレビと対をなしていて、この真っ白い部屋には異質だった。  防護服の一人がリモコンを操作した時だった。デスメタルの暴力的なノイズが耳に入り込み、テレビでは人を人とも思わない虐殺映像が流れ始めた。  気が狂いそうだった。最初のうちはこれは夢だと思い込んでいた。だが、ふと気づいた。絶望はまだまだ先にあったのだ。いつ終了するのか決められずに考える余地を残さない。デスボイスの猟奇的な声質。魑魅魍魎たちの宴だった。  俺が俺であることを認識したのは溢れ出るヨダレを垂らしている時だった。もうだめだ。限界だ。  俺は里美の部屋を見た。彼女はニコニコ微笑みながら俺を見ていた。おかしい。こんな世界でなぜ笑みを浮かべられるのか。いや、彼女はおかしくなったから笑っているのか。  だったら一層のこと。  俺はベッドのシーツを手に取る。それをロープ状態にしてドアノブに引っ掛ける。 「ハハもう、終わりにしよう」  俺の体がぶらさがる。  高良のいた部屋に里美が立っていた。その表情には気怠そうなクマなどなく、随分とすっきりとしていた。薄弱としていた生気は、陽に当たり水を得たかのようにどこ吹く風だ。 「なあんだ、1ヶ月で壊れちゃった」  後から白い防護服二人が入ってきた。しかし、里見に危害を加えるどころか、深く礼をする。 「女って化粧が‘できて便利よね。目のくまだってアイシャドウで表現できるんだもん。私は拷問されるフリをするだけ、電極も通ってないし、全部嘘。あなたが壊れるのを近くで見物したかったの」  里美は高良の前で立ち尽くす。 「死んだ後は誰でも無様ね。あんたが死んでも誰も困らないし……もういいわ。あなたたち運んじゃいなさい。母親も処理してね」  里美は部屋を後にして、コツコツ足跡を鳴らす。監禁は里美の持つ避暑地の一室で行われ、 全ての記録はコレクションルームに収められていた。里美はゆったりとしたアームチェアに座りパソコンのファイルに愛すべき5人目と付ける。それから、交響曲第9番を流してうたた寝をする。
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