悲鳴

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あれから、どれくらい時間が経ったのだろうか。手当てを受けたら貪るように眠っていた。白い部屋の外周を歩いてみた。一周するのに十秒くらい。三十周はしていた。 すると、気づいたことがある。部屋の壁には至るところに引っ掻き傷がある。そして、落としきれなかった血痕が残っていた。  俺は片手で顔を覆う。  もう、出られないという不安と、刺された恐怖が呼び起こされる。  だから、俺は唯一の同輩に声をかけることにした。 「おーい、いないのか。くそ、名前が分からねえ」  あまりに動揺して、名前すら聞いていなかった。窓も通路を隔ているせいで全体が見えないし。 「はーい」  少女は笑顔で窓の側に立つ。 「なんで笑ってるだよ、お前は」 「見てたんだもん。あんたが拷問を受けたあとは、2、3日私の所に来ないし」 「最低だな、お前は」 「みんな自分が可愛いでしょ。あんたが来る前は私だけだったんだからね」 「そうかよ。それで名前はなんでいうんだ。俺は高良裕太だ」 「西野里美よ」  里美の表情は昨日と違って緩やかだった。相変わらず眼の下の隈は酷かったが上機嫌らしい。今ならなにを聞いても答えてくれそうだ。 「俺がここに来て5人目だって言ったな。そいつらはここから出れたのか?」 「死んだわ」  面白くなさげに、思い出したくもない、というように里美は声を小さくする。  俺は言葉が出てこなかった。でも、里美がこうして生きているからには何か生き抜く方法があるのではないか。 「お前はどうしてそんなにそこに居れるんだ」 「あの人達が、私に挿れたがるだもん」  里美は自分の乳房を揉みしだく。 「まあ、最近はご無沙汰だけどね。キャハ、って壊れてるって」  里美の意識は薄氷の上に立たされているようなものだった。感情も表情も不安定で、今にも押し潰されそうだった。  そんな中、里美の部屋がガチャと開かれた。 白い防護服の二人組だった。里美の話では2、3日は来ないのではなかったのか。  二人組は俺と同じく白い椅子に座らせた。そしてバッテリーを持ってきて、里美を固定させる。金具のケーブルを里美に当てる。 「アアアアアア‼︎」  それは常人が発していい声ではなかった。震えが走った濁音混じりの発声は心臓を鷲掴みにされたような気分だった。  見ていられなかった。俺は即座にベッドに潜り込んで耳を塞いだ。その拷問を終えたら次は自分なのか。怖くて、眠るのすら、恐ろしかった。
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