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二月ぶりに下山してきた加那汰が、口から泡を飛ばして語る不可思議な話を、姉の優乃は車椅子に座り、うなずきながら聞いていた。
「……ってわけなんだよーっ。なあ姉ちゃん、信じてくれる俺の話っ?」
「信じるも信じないも、加那汰。亡くなった母さんの昔話、覚えてる? 夜光珠ってたしか、神龍のみが持てる宝玉なのよ」
「は?」
「そして常世を統べる龍王の子息たちは、皆、強い霊力を持ち、人にも変化できるって話」
「えええ?! なんだよそれっ、冗談だろ?!」
「その昔、龍王は自分の息子たちに命じたんですって。龍たるもの、海のごとくあれ。誰よりも強く、深く、ゆるぎなくあれと。以来、龍たちはあの世の果てまで巡っては、世界の均衡を揺るがす悪しきモノから、この世を守っている……」
加那汰は頭を抱えた。
「じゃ主の正体は龍だった?! 俺、蓬山の龍と暮らしてたの?」
「加那汰、あなたたぶん、龍に気に入られたんだと思う。何十年に一人くらいの割合で、そういう人間が出ると聞いてはいたけど……でもまさか弟がその一人になるなんて」
なんだか夢みたいね、と優乃は口元を歪ませながら笑っている。
「自覚しなさい、それってすごい僥倖なんだから。あなたきっと努力次第で、これからそうとうな大物になるわよ、きっと」
「は?!」
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