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それが合図のように忽然と雲一つ無い青空に雷雲が湧いて、中心に開いた孔から滝のような水がふり注いだ。
加那汰が驚きで息することすら忘れている間に、水は亀裂を埋め、小さな泉となった。
「どうだ、加那汰。闇切には、こういう使い方もあるんだぜ」
凪は歯を見せて笑うと「さ、昨日の飯の礼だ、遠慮なく飲め。生身の身体には生気が必要だ。この水は竜の宮からじかに引いた霊水だから、精がつくぞ?」
言われるまでもなかった。加那汰は夢中で泉のはたにひざまづき、水を手ですくうと喉を潤す。
にしても竜の宮だって?
たしかそれって常世にあるっていう、伝説の聖域だろ。
(凪ってホント何者なんだよ一体……)
気づけば雲は切れて、夏のひざしがひどく暑かった。
ようやく喉の渇きも収まり、人心地ついて水面を見つめると、はるか底のほうでキラキラ光るものが見える。
「あ、あれって、龍の鱗じゃ?!」
思わず叫んでいた。
あーあ、あんな深いところにあるんじゃ、何人の手にももう届かない。ところがその時、横にひざまづいた凪がそろっと右手をさし出した。
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