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若い青龍が一匹、ゆったりと大きな仕草で尾をたなびかせながら、音もなく蒼天に吸いこまれていく。その流水のような無駄のない動きに、わあっと歓声が上がった。
「でかいなぁ」
「なんて美しい生き物なんだ」
「しかしまさか龍を生で見られるなんて、思わなかったよ」
「ほんとだな。自分の人生なんて、たいしたことはないと思って生きてきたけど、きっとこれから、なにか良いことが起きる気がする」
「ああ神々しい。ありがたや――」
加那汰は夢中で人混みをかきわけ、最前列に出る。手の中にある鱗をぎゅうっと握りしめて。
あの龍だ。あの龍に、生きていくのにたぶん一等、大事なことを教わった。
信じること。愛すること。慈しむこと。守ること。
そして、想いを受け継ぐこと。
次は俺が――、あいつの背中を追いかける番。
凪ぃ、ありがとおっ、俺、絶対に忘れないからなーっ、わけもなく涙があふれ出て、気づけば加那汰は声をかぎりに叫んでいた。
了
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