マタニティーブルー?

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マタニティーブルー?

あの日、一人目の息子を初めて出産した日の夜、私は泣いた。 この事を知っているのは、当事者である私と息子と私の母の三人だけ。スヤスヤと眠っていた息子にしてみたら、何のこっちゃ?な話だろう。だってこの世に生まれてからまだ、1日しか経っていないのだから。 それでも、夢みがちな事を思うのならやはり、息子も頭数に入れておきたい。 「母さん、涙が止まらないよ」 「どうしたの?」 「どうしたんだろうね、私」 ポロポロと涙は私の頬を伝って流れ落ちる。 初めての出産を経験して、グッタリとした疲労感から体が、心が、落ち着きを取り戻しできたのかもしれない。今までにない、とびっきりのドキドキを味わった感覚。 私の腕の中にある、小さな小さな温かい命。 お腹の中にいた時とは違う、温かく、ズッシリとした重み。嬉しいはずなのに、怖いと思ってしまった私がいた。 果たして、私はこの小さな命をしっかり育てていく事が出来るのだろうか。本で読んだ、優しく笑顔で微笑ましい生活が送れるのだろうか。 理想を思えば思うだけ、私の心がギスギスしていく。 涙は止まらない。 「……そっか、私、不安なんだ」 私の腕の中で眠る息子に対して、可愛いよりも、温かいと思うよりも、急に現れた不安な気持ちが勝っていた事に気づく。 息子を生んだ途端、私は母親になり、目の前で心配そうな目で私をみている母は、祖母となった。 そのあまりにも、急な展開に……いや、準備していたはずの私の心と頭の中はパニックに陥り、目から涙が溢れ出してしまっていた。 「母さん、私、ちゃんと母親になれるかな?」 未だに慣れない、『母親』という響き。 不安そうな顔と声の私に、祖母になったばかりの母は、何か確信めいた顔をして私に微笑んだ。 「大丈夫よ。だって……、しんみりする暇なんて今だけよ?」 「えっ⁉︎」 その言葉に、いまいち現実味を持てなかった私は、『そんなバカな』と思っていた。 それから、10年後。 「朝よ!起きなさぁい!!今日の支度はしてあるの?ランドセル以外に持って行く物はない?ナプキン・マスク入れた!?今日はパン食べてってね。よく噛んで、飲み物飲んで。ああ、それから。お兄ちゃんはこの服ね」 「ママー、僕の服は?今日、体操服だよー」 「何で、家出る5分前に言うのぉおお!?」 ギャースカ、ギャースカ。 毎朝、怪獣の大きな鳴き声の如く、叫ぶ私。 「水筒持った?帽子は?上履きは?ぜぇーんぶ持ったのぉおお?OK?本当に?ハイ、じゃあ、行ってらっしゃい!「「行ってきまぁーす!」」ふう。毎朝毎朝、慌ただしい30分だこと」 しんみり、不安になっていたあの頃の私は、いったい何処へ行ってしまったのやら。洗面台の鏡に写っているのは、白髪と、そこそこ体重が増した私が一人。心なしか、やつれた感じが漂うのは目の下に隈が出来ているからだろう。 「あーあー。母さんが言ってた事、当たってたなんて……ね」 楽しそうに、嬉しそうに笑っていた母を思い出す。 さすが、ベテラン。 10年経った今でも私は頭が上がらない。 まぁ、上がらないなら、それ以上に頑張らなければいけないのだから、母親業は大変だ。 そして、私は今日も明日も、二人の元気いっぱいな兄弟を叱咤する怪獣ママになっていく。 「さて、起きるのに時間がかかるパパを起こしますか‼︎」
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