三叉路

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 女性の言う通り、グループディスカッションが始まった。ほとんど書類選考で落ちていた開人にとって、グループディスカッションは初めてのことだった。 「K大学理工学部の磯村将暉です。よろしくお願いいたします」 「W大学工学部の田中莉奈です。よろしくお願いいたします」  さっきのエレベーターの人たちだ。皆、大学名を自己紹介に入れている。ここで声をすぼませてはならない。開人は喉に力を入れた。 「Y高校の柚木開人です。よろしくお願いいたします」  皆がぎょっとするような目を開人へ向けた。  関係ない。高卒の俺を書類審査で上げてくれたんだ。臆するな。  開人は真っ直ぐに皆を見つめた。  グループディスカッションは開人の範疇を越えていた。専門の講義を受けたりしている大学生との差は歴然だ。ディベートやプレゼン経験の差も圧倒的に出てしまう。ディスカッションへ積極的に参画するも、どうしてもその経験の差を埋めるには至らなかった。   「さすがにダメかな。……でも、楽しかった」  トイレで手を洗いながら独り言を呟くと、後ろに人が居て驚いた。 「柚木くん? だっけ? お疲れー」  さっきの大学生だ。磯村将暉と言ったか。  髪は短く切り揃えられているが、おそらく就活までは遊んでいたのだろうという雰囲気がある。先程のディスカッションでは、この磯村さんが多く話したものの、内容が薄い印象を開人は感じていた。 「あ、お疲れ様です。先ほどはありがとうございました。楽しかったです」 「そんなに畏まらないでよ。どう? コーヒー飲みに行くんだけど来ない?」  肩に手を回されて、そう誘われた。今まで書類選考で落ちていたのもあって、こんな機会はなかなかない。大学生の就活事情やテクニックを聞けるならありがたい。単純に嬉しかった。 「良いんですか。是非、行きたいです」 「ああ、全然いいよ。ちょうどさっきさ、高卒で進んでんのすげえなって、君のこと話してたんだよ。行こうぜ」
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