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「高卒で三鐘商事の二次まで行けるんだねー。君、すごいよ。17歳とか?」
女性は田中莉奈と言ったか。終わってから、どこかでメイクを直したのだろう。すっかり印象が変わっている。
「はい、17です。でも、皆さんすごくて。さすがにグループディスカッションはダメでした。勉強になりました」
冷たいカフェオレに口をつけた。低くした目線の先に口角を上げた磯村の顔があった。
「さすがに高校生にはきついよな。それでも喋れてるだけ君はすごいよ。書類で君を落とさなかった三鐘商事も大したもんさ」
その言葉には、開人がここで落ちて自分は三次に進むという確信が含まれている。
「高卒で就活って今の時代でも大変なんじゃないの? やるねえ、君。応援するよ」
田中莉奈は甘ったるい声で言った。
「……まぁ、大変ですね。でも、頑張らないと。あの、大学の就活支援って、ああいうのも練習させてもらえたりするんですか?」
田中莉奈は味が薄くなったフラペチーノはもう要らないのか、半分ほど残ったカップにストローの袋を入れて蓋をした。
「ああ、そんなのもあるけど、あたしは受けてないな。就活なんて、要はコネよ。大学のコネ。人のコネ」
そう言って田中莉奈は薄く笑う。
「柚木くんは大学は? 受からなかったのか?」
磯村将暉はスマホを弄りながら、開人に訊ねた。
「うちは……お金ないんです」
「そっか、じゃあ、ここ奢るから気にすんなよ」
店を出て、二人は手を振ってくれた。もう会うことはないと決まっているように、「めげずに頑張りなよ」と声をかけてくれた。
開人は奢ってもらったカフェオレの冷たさに、やるせない悔しさを感じながら二人の背中を見送った。
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